第20話 新たな一歩

 帰らずの森から抜け、その入口にキャラバンが到着すると、すっかり日も暮れかかっていた。

 広場に出たところで、キャンプを始める園田一行。


 この辺りは、魔物の類が闊歩している風もなく、野営から開放され、園田一家とユイ一家に別れてトレーラーに泊まることになる御一行さま。

 久しぶりのベッドに喜々とする園田さん…だったのだが。

 その夜、リサとレミの手にかかり、童貞を散らすことになってしまう。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝、陽の光にさめざめと泣く園田がトレーラーの外に立っている。

「なんじゃ、あるじよ、昨夜はそんなに良かったのか?」

 ベビードール姿のレミが隣にやって来る。

「そうですよ、コウジさん。

 もう、照れちゃって。」

 シーツを巻いただけのリサも隣に並び立つ。

「ぼ、僕の童貞が…

 賢者の道が…。」

「はぁ?」

 園田の言葉に、首をかしげるレミとリサ。


「僕の世界では、三十年童貞を貫いた男だけが、賢者へ成れると言われてたんだぁ~!!」

 そう叫ぶと、膝をついてメソメソ泣き出す園田さん。


 そこへユイもやって来る。

「どうしたんです?」

「うむぅ…。

 まだ、自覚が足りんようじゃのう。」

 心配そうな顔をしているユイにレミが声をかける。

「ユイ、お前も手伝え。」

「はい?」

「リサ、お主も手伝え。」

 リサが駆け寄ってきた所で、状況を理解したユイも、園田を抱えあげ、四人でトレーラーに入っていく。


「子作りのやり直しじゃぁっ!!」

 その言葉を残し、扉は閉められる。


 ◇ ◇ ◇


 陽もすっかり昇りきり、娘たちが食事の準備をしていると、すっかり婚姻色に変わったユイが園田のトレーラーから出てくる。

「ああ、お母さん、おめでとうっ!!」

「おめでとうっ!!」

「おめでとうっ!!」

「ありがとう。」

 赤面しながら娘たちの祝福を受ける母親。

 三毛は抜け、白一色に変身したユイは、明らかに美人になっていた。


 遅れてリサとレミも出てくる。

 二人とも毛ヅヤ良く晴れやかな顔になっている。


 最期に、顔や首、肩と至る所にキスマークを付けられた園田さんが出てくる。

「お父さん、お母さん。

 おはよう。

 ご飯できてるよぉ。」


 娘たちも嬉しそうに食事の準備を進めていく。

「とりあえず、パパは見っともないから、シャワーを浴びてきて。」

「はい…。」

 ユイに促され、シャワー車へ向かう園田。

 その様子をニコニコ眺めているリサとレミ。

「リサとレミも、パパが出たら入るのよ。」

「は~~い。」

「あなたたちもっ!」

 ユイに促され、レミやリサを始め娘たちも指示に従っていく。

 全員が綺麗になったところで、食事が始まる。


 黙々と食べる園田、そんな彼を見つめる十二の瞳。

 さすがに園田も気になるのか、周りを眺めると全員が園田の顔を見ながら食べている。

 一頻り食事も終わり、お茶を飲む頃には女性陣がワイワイと騒ぎ出した。

「ねぇ、レミは何人くらい考えているの?」

「そうじゃのぉ。

 一人でも授かれれば、幸いなんじゃが…。

 三人は欲しいのぉ。

 リサはどうなんじゃ?」

「私?

 私は…五人ぐらい欲しいかなぁ…。

 ユイさんは?」

「そうねぇ…。

 あとニ、三人は欲しいわねぇ。」

「これは、あるじにはガンバッテ貰わんといかんのぉ。」

 笑顔が弾け、笑いの花が咲いている…その横で


(僕、早死するかもしれない。)

 何かにおののく園田さんが居た。

 ちなみに娘たちはというと…。


 何だか怪しい色合いの瞳になっていた。


 ◇ ◇ ◇


 キャラバンが動き始めた。

 相変わらずトレーラーを三両従えて、ボチボチ走り出すハイ○ース。


 さて車が走り出し、小一時間ほど走った頃、騎士の一団が車の前に立ちはだかる。

「おやおや、森で変な事件でも有ったんでしょうか?」

「さてのぉ。

 とりあえず、大人しく停まるしかあるまい。

 あるじよ、人種と争うわけには行かぬじゃろ。」

「ええ、出来れば。」

 園田とレミが話している間にも、キャラバンは騎士団にどんどん近づいている。

 騎士団は既にこちらに気付いていたようで、彼らの十メートル手前で停止することとなる。


 車を止め、エンジンを切った後、園田が車外に降り立つ。

 すると、騎士が一人近づいてくる。

「こんにちは。」

「こんにちは。」

 園田が会釈し、騎士も会釈する。

「何が有ったんでしょうか?」

「おそらくですが、あなた方を探していました。」

 騎士から返答に首を傾げる園田、騎士もキャラバンの車体に目を丸くしている。

 お互いの仕草をしばし観察し、お互いに何となく理解出来たのか、話し始める。


「私は園田といいます。

 旅行者で、後ろに見えるのはキャンピングカーという、移動可能な宿泊設備です。」

「はぁ…、この馬車が宿屋に…。」

「まぁ、そんなところでしょうか。

 …それで、我々への用事と言いますのは?」

「とりあえず、我らのあるじに会って頂けないでしょうか。」

 そうこう話していると、レミがやって来る。


「せめて理由は聞いても失礼なかろう。」

「…」

 レミの質問に口籠ってしまう騎士。

「まぁまぁ、レミ。

 そう言わずに、会いに行ってみようよ。」

「まったく、うちのあるじは…何処までお人好しなんじゃ。」

 半目でため息をつくレミと祈るようにすがる騎士。

「じゃ、行こうか。

 お主、案内を頼むのじゃ。」

 レミがハイ○ースに向かって歩き始め、園田はサムアップをする。

 同行を了承されたと理解した騎士は、一団のもとに戻る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る