第17話 旅行の始まり

 キャラバンが出発した。

 屋根にゲルの部材を積み、住民たちをトレーラーに乗せて。


 ハイ○ースの運転席に座る園田。

 レミとリサは助手席と補助席にそれぞれ陣取り、猫娘たちの描いた地図を眺めながら、怪しげなナビゲーションをやっている。


「とりあえず、森を左てに見ながら、寄り添うように進むんだな。」

「たぶん。」

 二人の自信無さそうな返事に閉口する園田。

 ちなみに、地図に目的地は表記されているのだが、距離に関する情報が皆無と来ている。


(はてさて、何日かかることやら…。)

 そんな事を園田が考えていると、前方に一頭立て馬車が横倒しになっているのが見える。


「コウジさん。

 あの馬車の横に止めてもらえますか?」

「了解だ。」

 リサの依頼に答え、キャラバンを馬車の横に停める。


 後ろのトレーラーからユイも降りてくる。

 他のメンバーは、念の為車内待機である。


 激しく走ったのであろう、馬車のわだちは蛇行し、直前の岩にあたって横転している。

 馬車には幾本かの矢が刺さっている。

 馬車を引いていたであろう馬は、泡を吹いて絶命している。


 馬車の中を覗くと、エルフの一家らしい、男女の成人と男の子が倒れている。

 リサが馬車に入り様子を見ている。

「男性は気絶しているだけ、子供も大丈夫だけど…。

 女性は重症ね、矢に塗られた毒が全身に回ってる。

 意識が戻るかも微妙ね。」


 とりあえず、三人を馬車から降ろし、いつものように毛布を敷いた上に寝かせる。

 レミが馬車を物色しているようだが、目ぼしいものを見つけられなかったようで、憮然としている。

 リサの介抱も有り、女性の意識は戻るが、動かせる状態ではなかった。


「仕方ない、今日はここで野営する。」

 そう言って、トレーラーをキャンプモードに切り替えていく園田。

 その頃には、エルフのご主人と男の子も目を覚ます。


 ◇ ◇ ◇


 起き上がったエルフのご主人。

 奥さんの容態を見てパニックを起こす。

 男の子もワァワァと泣いてしまう。


 男の子はリサがあやすこととなり、ご主人を落ち着かせる役はレミと園田が対応している。


「…そうでしたか。

 すいません、事態を飲み込めず、混乱してしまいました。」

「いえいえ。」

「私は、オイゲン。

 息子のケニー…。

 そして、妻のウェンディです。」

 園田に頭を下げるご主人。


「見たところ、旅行者のようじゃが。

 お主、何処から来て、何処へ向かおうとしておったのじゃ?」

「!!!」

 レミの意味深な質問に絶句するオイゲン。

「おいおい、レミ。

 その質問は、失礼が過ぎない…。」

あるじよ、エルフは移住することが無いのじゃ。」

「それじゃ…。」

「ええ、僕たちの里は人種に襲撃されまして、散り散りに逃げて来ました。

 そして、人種の盗賊に襲われまして…。」

 ボロボロ泣き出すオイゲン。

 傍にいるウェンディもなにか言いたげであるが、声が出てこない。

 とりあえず、家族水入らずで過ごせるよう、テントを立てる園田。


 猫娘たちの手も借りて、トレーラーから寝具を持ち込み、ウェンディをそこに寝かせる。

 オイゲンとケニーもテントに入ってもらい、ゆっくりしてもらうことになる。

「それじゃ、おやすみなさい。」


 リサがにこやかに挨拶をして、テントの戸を閉める。

 テントの外では、園田とレミが野営の準備を進めていた。

 リサも園田の傍にやって来る。

「彼女、今夜が峠になりそう…。」

 大粒の涙をこぼし、涙声で話すリサ。

 そんなリサの肩を持つ園田。

 レミもそっとリサの背中に寄り添う。


 彼らは気づかなかったが、猫娘たちも自分たちの部屋でエルフたちを不憫に思い、ワンワン泣いていたのだった。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝、ウェンディは安らかに永眠した。

「僕たちは、ここに留まります。

 妻の菩提ぼだいを弔いたいのです。」

 オイゲンがお礼を述べると、レミが首を横に振る。

「それは、受け入れられない。」

 レミは周囲を見回す。

「ここに留まるのは、愚策。

 あなたや子供は奴隷となり、奥方の墓も暴かれ、見るも無残な景色が残るじゃろう。」

「…。」

 言葉を失うオイゲン、ケニーは母の亡骸の傍に座り、猫娘数名が寄り添っている。


「奥さんの亡骸はここに置いていく。

 お主らは、妾たちと行動を伴にしてもらう。」

 そう言い放つと、ウェンディの亡骸を取り上げようとするレミ。

 ケニーだけでなく、寄り添っている猫娘たちも阻止しようと必死で懇願している。


 そこへ、木の箱を持ってくる園田。

「遺体を火葬し、遺骨をこの箱に持って行きませんか?」

「妥当じゃな。

 いずれ腐敗し、見るに耐えられない姿になる前に…な。」

 レミが園田の提案に承諾し、オイゲンも頷き、ケニーを説得する。


 ささやかな祭壇とお香を準備する園田。

 レミは竜人化し、最小限のブレスを吐く。

 ウェンディの遺骨が出来上がるまではそう時間がかからない。


 遺骨を木箱に入れ、紫の風呂敷に包みオイゲンに渡す園田。

 オイゲンは無言で受け取り、ギュッと抱きしめる。

「では、行きましょうか?」

 園田に促され、ハイ○ースの後席に乗るオイゲンとケニー。


 トレーラーを移動モードに変更し、猫娘たちも移動の準備を整えると、全員がトレーラーに乗り込み移動を開始する。


あるじよ、すまんが、妾の指示するところへ向かってくれるか?」

「どうしたんだ、レミ。」

「ちょっと、思うところがあるだけじゃ。」

 そういうレミは、物憂げそうな表情になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る