第16話 黒い紳士とお引越し

「ほう…自動車とは、初めて見ましたよ。」

 園田の案内でハイ○ースをぐるりと見て回るクロムウェル。


「この世界には無いでしょうからね…。

 これが、エンジンといって、自動車を動かす原動力になるものです。」

 助手席を動かし、シート下に有るエンジンカバーを開ける園田。


「ふむ…内燃機関というやつですか?」

「よくご存知ですね…。

 いずれ燃料がなくなれば、こいつも鉄の塊ですよ。」

「そうですね…。」


 そういうと、エンジンにおまじないをかけるクロムウェル。

 不思議そうに、その光景を眺める園田。


「これで、燃料切れはなくなるでしょう。」

「???」

 クロムウェルの言葉を理解できず、不思議そうな顔をする園田。


「それと、猫娘たちとしばらく行動をともにされると伺いましたが。」

「はぁ…まぁ、色々有りまして。」

 クロムウェルはニコっと笑い、園田は後頭部をかいている。


「まぁ、袖擦れ合うのも何かの縁ともいいますし、美味しい飲み物、面白い物を見せて頂いたので、お礼代わりと言ってはなんですが、受け取って頂ければ幸いです。」

 クロムウェルのフィンガースナップ(ゆびパッチン)で、ハイ○ースの後ろに、同程度のサイズ感のキャンプトレーラーが三両連結されてくる。


 よくよく見ると、三両目には煙突がついている。

「なっ!!」

 園田さん、目が点になる。


「それでは、良い旅を。

 あぁ、次お会いしたときはクロウと読んで下さいね。」

 茶目っ気たっぷりのウィンクを残し、クロウは蜃気楼のように消えていった。

「…。」


 呆けている園田の傍にレミが立っている。

「クロウめ、面白いおもちゃを置いて行ったな。」

「レミ?」

 レミの存在にようやく気づく園田。

「知り合いなのかい?」

「ええ、まぁ…。」

 なんとも返事の歯切れがよくないレミ。

 いつの間にかOL制服に着替えたようで、すっかり落ち着いた雰囲気になっている。


「そっかぁ…。

 っで、これ貰っていいものなのかなぁ?」

「いいんじゃないか。

 あいつの気まぐれなんだろうし…。」

 聞かなかったふりをする園田も、歯切れがよろしくない。


「あら、どうしたの二人とも。」

 軽やかな声色でリサもやって来る。

 薄い水色のワンピーススタイルに、凍りつくレミと園田。


「か、かわいい…。」

 二人して同じ言葉が漏れる。

 フリルもあしらわれたパステルカラーのワンピースを着るリサ。

「あら?

 車が大きくなりました?」

「ええ…

 ああ…

 うん。」

 間の抜けた返事をしてしまう二人。

 そんな二人を置いて、スキップしながらキャンプトレーラーに近づいていくリサ。

 しかし、ドアが開かない。

「ぶ~~。ドアが開かない。」


 ふと園田が手のひらに違和感を感じ、覗いてみるとキーが一セット輝いている。

「ああ、鍵開けるよ。」

 そう言って走り出す園田。

「妾も、可愛い服がほしいのう…。」

 とつぶやきながら、レミも園田の後に付いて行く。


 ドアが開き、中を覗くリサとレミ。

「少し狭いのう、乗って移動する分には十人ぐらい乗れそうじゃが、生活はキツかろう。」

「折角、ゲルよりも使い勝手が良いと聞いてたのにぃ…。」

(誰から聞いたの、その話?)

 と思いながら、園田はウインクを送り、ドアから二人を離れさせる。


 ハイ○ースのエンジンを掛けた後、戻ってくると、或るボタンを押す。

 すると、車体四隅のジャッキが降ろされ、奥に向かって、壁が動き出す。

 やがて、奥行きが二倍程度になったところで、壁の動きが止まる。

「おぉぉ~~。」

 感嘆の声をあげるリサとレミ。


「他のキャンプトレーラーも、同じような機構があるから、そこそこ広い空間は出来るはずだよ。」

 園田が話し終わる前に、リサとレミは車内に入り、はしゃぎ出している。


「いいわねぇ、これ。」

「ええ、床もフカフカで気持ちいいですね。」

「寝床も、良いものが準備されとるし、クロウも、良い土産をよこしたものじゃ。」

「ですねぇ…。

 お茶菓子出して正解でしたね。」

「そうじゃっ!!」

(なるほど、…そういう事か…。)

 園田は妙に納得し、車内に入っていく。


「これだったら、十人でも余裕で寝泊まりできそうだな。」

「そうじゃ、野宿を避けられる上に、最後尾にはバスが付いてるんじゃろ?」

「そうですね。」

「ええっ!

 お風呂も付いてるの?」

 レミと園田の会話で、お風呂の話が登場したところで、リサが割り込んで、目を輝かせている。


「そうじゃ、楽しみにしておれよ。」

「うんっ!!」

 二人がはしゃいでいるところに、ユイたちもやって来る。


「何々…

 って、何この建物っ!!」

 どっと、猫娘たちも中に入ってきて、感嘆の声をあげる。

 盛り上がっている娘たちをすり抜け、外に出てくる園田とレミとユイ。


あるじよ、ユイとも話したのだが、そろそろ、ここを引き払うぞ。」

「そ、そうなのか?」

 園田の返答に無言で頷くユイ。

「クロウが来たぐらいじゃからのう。

 遅かれ早かれ他の冒険者ならずものが来てもおかしくないのじゃ。」

 園田の脳裏に、奴隷として連れ去られるレミやリサ、猫娘たちの姿がよぎる。


「急ぎましょう。

 詰める荷物は、キャンプトレーラーのキャリアにも載せましょう。」

 ユイは、猫娘たちを集め、ゲル解体の打ち合わせに入る。

 園田は、キャンプトレーラーを移動可能状態に戻し始める。

 リサは、三両目のタンクに水を補充すべくポンプとホースを持って小川に向かう。

 レミは、ハイ○ースを含め、すべての車両に保護魔法をかけ始める。

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