第13話 お食事の準備

「貴方に、もう少し早く会えていたなら、きっと私…。」

 ベビードールに身を包み、涙を流す黒髪の美人が目の前に立っている。

「なぁ、〇〇、どうすればお前を…。」

 女性の背後にはピンク色の照明、ピンク色のベッドと天蓋が置かれている。

 女性の両肩に置かれる男性の手…。


 ◇ ◇ ◇


 ふと目を覚ます園田。

 いつの間にか居眠りをしていたらしい。

 周りを見れば、陽も傾き始めているようなのだが…。


 篭に正対する位置に、涙を流しているリサとユイ、そしてあさっての方向を見ながら後頭部をかいているレミ。


「???」

 首をかしげる園田。

 レミが何かをやらかした時の癖が出ているのは、まぁ良いとして…。


「二人とも、どうしたんですか?」

 篭越しに心配そうな顔をする園田を気遣い、涙を拭くリサ。

「何でも有りません。

 ‥それより、コウジは大丈夫?」

「ああ…懐かしい夢を見ていた。

 …思い出すことさえ忘れていた遠い昔の…ね。」

 そう言う園田も、涙を流している。


 ユイがゆっくりと歩み寄り、篭の扉を開く。

「釈放よ…。

 娘たちが世話になったわね。」


 そう言うと頭を下げ、村落の方へ戻っていくユイ。

 リサは園田に抱きつき、解放を喜んでいる。

 レミも反対側から抱きついている…が、笑顔の下には嫉妬が見え隠れしていた。


 ◇ ◇ ◇


「娘の恩人に失礼しました。

 お礼もしたいので、今しばらくは私たちに同行いただけませんか?」

 ユイが頭を下げて懇願している。

「そう言われましても…。」

 リサとレミの方へ振り返る園田。

「いいんじゃない。」

「妾も構わんぞ。」


「それでは、そう云うことで…。」

 園田がお辞儀をすると、手を叩いて喜ぶユイ。


「それでは、こちらにどうぞ。」

 ユイの案内でようやく村落に入りかけたところで、営業車ハイ○ースが目に留まる園田。


「あの~、ユイさん。」

「はい?」

「僕、車に寄ってもいいですか?」

「クルマ??」

「あの、馬車のことです。」

 園田の言葉にキョトンとするユイ。

 あわててリサがフォローに入り、ハイ○ースに行きたい旨を説明し、了承してもらった。


 …のだが。

「コウジさん、これは何ですか?」

「それは、コーンフレークといって…。」


「妾、これが食べたいっ!」

「あ~~あぁ、レミ、缶詰をガワごと食べたらだめっ!!」


「ソノダ殿…この缶詰は、我々だけの食べ物ですか?」

「猫缶…だよなぁ。

 大丈夫かなぁ??」

 屋根の屋外倉庫キャリアから食料の入ったダンボールを取っていると、リサたちも集まってきた。

 んで、この騒ぎである。


 コーンフレークの箱を開け、中身を頬張るリサ。

「この歯ごたえが良いわぁ。」

「それ、牛乳と混ぜて食べると美味しい…はずなんだけど。」


 大量の甘辛煮サンマ缶を抱え、今にも頬張りそうな勢いのレミ。

「レミ、何でサンマ缶なの?」

「この匂いが堪らんのじゃ!!」

「匂い??」

「主が供してくれた、狼男焼肉ディナーと同じ匂いがするのじゃ!」

「…普通、缶詰の中身の匂いは漏れないはずだが??」

「もうカジッたっ!!」

 レミが半分カジッたサンマ缶を取り出せば、眉間に手を当て、頭を抱え込む園田。


 猫缶を大量に抱えユイもホクホクしている。

「これが、美味いというのは本当?」

「…誰に聞きました?」

「レミ様!」

 満面の笑みを浮かべるユイに、再び眉間に手を当て、頭を抱え込む園田。


「缶ごと食べたらだめですよ…。

 っとに、猫缶を食料箱にいれるって、どうゆう神経してるんだか…。」

 ゆっくりと猫缶の蓋を開けると、ほのかに香る鮪と鰹のフレーバー…。


 ユイが園田に飛びつく。

「ふにゃ~ぁ、ふにゃ~ぁ。」

「ちょ…、ちょっとぉ、」

 甘い声を出し園田に抱きつくユイ。

 園田が慌てて猫缶を地面に置くと、ささっと座って猫缶の中身を味わうユイ。


 さて、この猫缶、園田を混乱に陥れる罠があった。

 …この猫缶には「マタタビ」がと含まれているのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る