第9話 人街

 平原を疾走するハイ○ース。


「とりあえず、食料を確保しよう。

 …いい加減カップ麺は飽きた。」

「そうね…。

 あの子たちに関わる情報も必要だしね。」


 運転席の園田と助手席のレミがのんびりと話し合っている。

 後席では、リサがネコ娘たちを抱きかかえたまま爆睡している。


「仕方ないな…あの子たちの不安を払拭するのに骨が折れたからなぁ。」

 ルームミラー越しにリサを見る園田。


「そうね…。

 でも、街に入るのなら、あなたとリサだけにするのよ。」

「どうしてさ?」

「人に見つかることを避けるためよ。」

 やれやれといった顔のレミ。


「いいかぁ?

 獣人を街に連れ込めば、拉致されて奴隷じゃ?

 そこのところは解っておるかの?」


「すまん。

 …って、レミたちはどうするんだ?

 街の近くだと、見つかり易くならないか?」

「大丈夫、妾が居るじゃろう。」

「それで、俺とリサというわけなのか…。」

「そういう事…と、そこの林に車を停めるのじゃ。」

「解った。」


 街の輪郭がぼんやり見える林で車を停め、熟睡しているリサを申し訳無さそうに起こす園田。

「では、気をつけていくのじゃぞ。

 くれぐれも言っておくが、として行動するのじゃぞっ!

 解ったな。」

「ああ。」

「はい。」

 生返事の園田と赤面しているリサ。


 そんなリサの耳元にレミが近づく。

「何かある前提で話しておく」

 そう言って、耳にイヤリングを付け

「トラブルが有ったら、このイヤリングに触り声をかけるんじゃぞ。」

「はい。」

 真剣な顔で答えるリサを見て、笑顔になるレミ。


「デートを堪能するのじゃ。

 土産は絶対忘れるでないぞっ!」

 そう言って、ウォーウルフの毛皮を詰め込んだリュックを園田に放り投げるレミ。

「それじゃ、行ってくる。」

「行ってきます。」


 二人は歩き出す。

 その姿を眺めるレミ、するとその横に三人ネコ娘が近づいてくる。

「ささ、お前たち、車に戻るぞ、隠蔽魔法をかけて姿をくらますからの。」

 言うが早いか、車が陽炎のように消える。

 四人が車に乗り込みドアを締めると、車は消え去り、そこには林しか存在していない。


 街の入口で呼び止められる園田、するとリサが進み出て二言三言衛兵に話し、ウォーウルフの牙を手に持たせると、快く衛兵が街に案内してくれる。


「り、リサ、何をしたんだい?」

「袖の下を渡して、通してもらっただけですよ。」

 あっけらかんと答えるリサ。

 門をくぐると、西部劇さながらの町並みが園田の眼前に広がる。


「ここが、人の街…ねぇ。」

「さ、毛皮を換金しましょう。」

 そう言うと、ひときわ出入りの多い店に入っていく。

 看板には冒険者ギルドと書かれている…らしい。


「あのぉ~入会希望の方ですか?」

 リサが換金の打ち合わせをしている間、掲示板を眺めている園田にギルドの受付嬢が声をかけてくる。

「い、いえ僕は…。」

 返事が終わる前に、受付へ連行され必要事項を色々聞かれる園田。

「はい、これ証明書です。無くさないでくださいね♪」

 名刺サイズのプレートを渡され、受付窓口を追い出される頃、丁度リサもやって来る。

「あなた、冒険者登録したんですか?」

「ああ、何か登録されてた。」

「そう。」

 ニコっと笑うリサ。


「さぁ、露店を回って食料品を確保したら、早々に引き上げましょう。」

 促されるままに冒険者ギルドを後にして、食料品が揃うという露店に向かう園田とリサ。

 腕組みをし、しっかりデート気分を堪能するリサと満更でもない顔の園田。

 野菜、果物から干し肉などの乾物まで、片っ端からリュックに詰め込んでいく。

 …が、リュックは膨らむ様子がない。


「そういえば、先程冒険者ギルドで貰った証明書って有ります?」

 陽が傾き始め、街外れの門から出たところで、不意にリサに促され、慌ててプレートを渡す園田。

 するとリサがイヤリングを触りながら

「レミ、お願いします。」

 声が終わるとともにプレートから煙が上がり、門から飛び出してくる冒険者達。


「くそぉ~、逃げられたか?」

「良い金づるに成るって聞いたのによぉ~!」


「動かないで下さい。」

 小声でリサが話す。

 どうやら、目前の冒険者には園田たちがみえていないようだ。

 彼らは門の周辺を徘徊した後、正門に向かって走っていった。


「もう大丈夫です。」

 そういうとリサが手を取り、車の方に向かって歩き出す。

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