第8話 送り届け先

 夕食の準備をしていると、車の中から音が聞こえてくる。


 そっとリサが立ち上がり、車内を見ている。

 恐らく猫娘たちが起きたのだろう、リサが窓越しに頷き、後部ドアをスライドさせ、猫娘たちを連れてくる。


 ビクビクしている三人。

 お世辞にも話せるような状況ではない。

 リサは彼女らの隣に座り補助をしている。

 レミは俺の隣に座りおとなしく食事をしている。


「それで、貴女たちはどこから来たの?」

「…。」

 レミの質問に、口籠る猫娘たち。

 辛うじてクロブチ猫娘がリサに耳打ちして答える程度だった。


「わからない…みたい。

 薬草を取りに行った先で襲われて…。

 気がついたら車の中…。

 そして出てきてみたら人種が居る。

 もう奴隷として売られると思っているみたい。」

「売るのかい?」

 レミの冷たい視線が刺さってくる。

「何で、人を売らないといけないんですか?」

 そう答えると、猫娘たちは目を丸くし、リサは目を細めて微笑み、レミは高笑いする。


「獣人を『人』というか、『奴隷もの』と言わず。」

「この世界には奴隷制度が?」

「ああ、獣人はほぼだ。」

 レミはニヤニヤしながらこっちを見ている。


「問答無用で、奴隷は納得できないね。」

 そう答えると、猫娘たちが泣き出した。


 慌てて彼女たちをあやすリサ…とてもうれしそうだ。


 レミに腕を引っ張られよろける園田。

「コウジ、よく言った。

 それでこそ、妾の婿だっ!」


 胸元に頭を寄せワシワシしてくるレミ。

 その手の動きは優しく、顔は見えないが、きっと喜んでいることだろう。


 会話も一段落し、ゆっくりと夕食が始まる。

 安心したのか食欲旺盛な三人の娘たち、リサも嬉しそうに食べ、レミのおかわりも続いている。


「ところで、そちたちはどこから連れてこられたのだ?」

「わからない…みたい。」

 レミの質問に、三人猫娘の話を聞いて答えるリサ。


「じゃぁ、貴女たちの住処すみかはわかる?」

「たぶん…。」

 リサが聞いた話を掻い摘むと、猫娘たちは移住生活をしており、時期によって住処が変わっているため、正直、今どこに住んでいるのか解らない。

 との事だった。


「困ったのぉ。」

「何が?」

「移動しているキャラバンを見つけるのって、大変なのじゃ…。」

 レミの言葉に園田はおどけてみせるが、リサも当惑している。


「あはは…はぁ。」

 ため息をつく園田。


 その夜。

 三人猫娘は後席に、レミとリサを運転席と助手席に座らせ、眠ってもらうことにした。


「ほうほう、ふかふかの寝所じゃ。」

「でしょ。」

 五人がはしゃいでいるのだろう、車が揺れているのを眺めながら、夜営の準備、ヤカンを七輪に置いた。


 お湯が湧き出す頃、車のドアが開くと、リサが降りてくる。

「となり…いいですか?」

「ああ。」

 リサが隣に座ったところでカフェオレを注ぎ手渡す。

 自分の分も準備する。


「探すんですか?

 彼女たちの家族を。」

「ああ、約束したからな。」

「そうなんだ…。

 ちょっと羨ましいなぁ。」

「???」


「こっちの話…。

 でも、見当がついても移動範囲は広いから探すの大変よ。」

「まぁ、やるだけですよ…。」

 そう言って上を見上げると、木々の切れ間から星空が見え隠れする。


「あ、あのですね、コウジ。」

「うん?」

「もし、私の家族が居るとしたら、探してくれますか?」

 ゆっくりリサの方に目を向けると、リサはうつむいてモジモジしている。


「居るのかい?

 家族…。」

「い…いませんけど。」

「そうか。」

 一息ついて話をすすめる。


「まぁ、家族のことを思い出したら、相談してくれ。

 力になるよ。」

 そう言ってリサの頭を撫でる。


 …すると、リサの髪色がグレーから明るいブラウンに変わっていく。

 髪ばかりではない、耳も毛も明るいブラウンに変わる。

 顔を上げ、見えた瞳はコバルトのように澄んだ深い青だった。


「婚姻色ね。」

 レミの声が聞こえ、後ろを振り向くと彼女がそこに立っている。


「レ、レミ。」

「妾を差し置いて相引っ!

 …とは言わんぞ。」

 俺の手の下でリサは小さくなっている。

 レミもリサの上に手を置く。

「おめでとう、リサ。

 今日から貴女も、コウジの妻じゃ。」

「は…はいぃぃ!!」


 了承した覚えがないのだが、獣人の古い習わしで特定の異性に対し婚姻色が発生した時点で結婚が成立する事を、園田は後々知ることになる。


「さぁ、早々にあの子たちを送り届けたら、妾たちの結婚式を挙げようぞ。」

 レミが優しくリサの耳元に話しかける。

 赤面し涙を浮かべたリサが何度もレミを見ながら頷いている。

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