第7話 自己紹介

「で、この馬車はどこを目指している?」

「どこでしょう?」

 レミとリサが謎の会話をしている。


「で、どこを目指しているの?」

 二人の視線が、言葉とともに刺さってくる。


「ど、どうしましょう…。」

 園田の返答に、レミがため息をつき、話を続ける。


「とりあえず、あの子たちを送り届けるのが先だろう。」

「そ、そうですね…。」


 突然、レミに視界を遮られ慌ててブレーキを踏む。

「な、何ですか?」

 レミの顔を見ると、彼女は怒っている。

「その言葉遣いも止めよっ!不愉快じゃっ!」

「わ、わかりました。」

「んんっ?」

「わ、わかった。」

 レミはニッコリする。

「よろしい。」


 リサもチラチラとこっちを見ている。

 レミは一つ咳払いをして

「妾たちの間では、敬語無用。」

「わかったよ。」

 リサはこちらを見てニコニコしている。


「とりあえず、適当なところで夕飯にしましょうか?」

 リサとレミが頷いた。

 目の前には少し開けた場所が見える。

 今日の宿泊先は、そこになりそうだ。


 ◇ ◇ ◇


 いつもの三脚とランタンを出し、カセットボンベとパイプ椅子も取り出す。

 テントも必要になるだろうと思い、後部ドアを空けているとリサとレミも覗き込んでくる。


 レミがチェンソーに興味を示す。

「これは、何じゃ?」

「あぁ、それは、チェンソーと言って…。」

「妾の武器だなっ!」

 早速手に持ち、満面の笑みを浮かべるレミ。


 リサが引いているのがわかる。

「いえ、それは木を切る道具でして…。」

「うむうむ、献身的な婿じゃ。」

「はっ?」

「へっ?」

 レミの発言に言葉を失ってしまう、園田とリサ。


「誰が、誰のお婿さん??」

 リサがレミに掴みかかるように質問すると、それまでミドリ色だった髪と鱗がくれないに染まるレミ。

 瞳のひいろは、より赤みを帯び、角はより漆黒へと変わる。


「妾が妻で、コウジは妾の婿になったのだ。」

「ま、まさか…婚姻色ぅ!!」

 リサがビックリする。

 が、園田には事情がよく飲み込めない。


 園田さんはどうやらレミの婿になってしまった…らしい。


「ま、待って下さい。…あなたは仮にも…。」

「うるさい小娘だな?

 おい、コウジ、こいつはお前の嫁なのか?」

「よ、嫁ぇ?」

 リサと園田が赤面する。


 事情を話すとレミはニヤニヤしながら、リサを見る。

「…で、水浴びをした後、彼の対応にドキッとして、人の方に振れた訳か。」

「…はい。

 でも、レミも大概じゃないですか。」

 リサも切り返す。

「なんで、会って一日も経っていないのに…。

 いきなり婚姻色って、節操が無いんですか?」

「妾は、奔放を旨とする竜人。

 しかし、たわけではない。」


 リサにゆっくり向き直るレミ。

「考えてもみよ。

 獣人を見て襲わぬ人種など、聞いたことがない。

 あまつさえ、お主を守ろうと咄嗟の閃きに走り、結果としてお主たちに妾の加護を与えた。

 妾としても、このような人種は惜しい。」

 

 そして、園田に顔を向ける。

「コウジとともに居れば、美味しい食べ物に有りつける予感もすれば、妾にあつらえられたとしか思えぬ武器まで持参しておる。

 もはや婿に娶らない道理がない。」

 そう言って、キスをしてくるレミ。


 リサは顔を覆いながら、視線をこちらに向けている。

「コウジよ、今言った通り、妾は竜人、獣人の類いじゃ。

 幻滅したかの?」

「いいえ。」

「そうか。

 …では、妾との婚姻は認めてくれるかの?」

「すまんが、それは…。」

「妾じゃ、ダメか…。」

 肩を落とすレミ。

「ダメとかではなく、女性と交際したことがないので、戸惑っているのです。」

「そ…そうか、では…。」

「はい、婚姻はまだ考えられませんが、結婚を前提としたお付き合いをさせて頂ければ…。」

「コウジ、言葉遣いっ!」

 そう言って、起こる素振りをしながらも、幸せそうな顔のレミ。


「…。」

「わかった。では、結婚を前提としたお付き合いとやらを始めようぞ。」

「よろしくおねがいします。」

 そう言って、レミの額にキスを返した。


「うむ、よろしく頼むぞっ!」

 レミはそう言って抱きついてきた…。

 のだが、絵面が小学生とおっさんの熱い抱擁…。

 どうにも犯罪臭がしてならない。

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