第4話 移動開始

 目を覚ますと、周りが明るくなり始めている。


 隣を見れば、リサが毛布にくるまって眠っている。

 ランタンは燃料切れで消灯している。


 周囲をぐるりと見回し、耳を澄ませ、何も反応がないことを確認し、車外に出る。

 ドアをそっと締め、ゴミ袋を確認に行く。


 ゴミ袋は昨日放置した状態のままであった。破いたような後はおろか、虫もついていない。

(ハエやアリさえもいないのか?)


 今朝の朝食の準備も有るので、とりあえず車の方に戻り、運転席側の後部ドアを開ける。

 …が、あるのは、ひたすらカップ麺のみ。

 まぁ、品揃えが豊富なのが救いなのだが。

「…。」


 物音に気づいたのか、リサも目を覚ましたようだ。

 カップ麺をいくつか取り出すとともに、天井にあげていた椅子とカセットコンロを降ろす。


 ヤカンに水を入れお湯を沸かし始める。

 リサは毛布を椅子に置くと、しっぽを振りながら車から降りてきた。

 すでに、美味しいご飯にありつけることを理解しているようだ。


 お湯が沸くまでの間、リサを椅子に座らせ、たまたまカップ麺たちの下に釘抜きがあったので、こいつで後部ドアをこじ開けることにした。

 ドアが開き、上に跳ね上げると、格子状の工具棚が姿を表す。

 チェンソーに、丸ノコ、釘打ち機に自家発電用エンジンにエアーコンプレッサー、はては電気溶接機まで乗っかている…。


「うちの会社って、どこの現場に人材を派遣してたんだ?」

 心の声が口をついて出てしまうと、リサが傍にやってきて、工具棚を不思議そうに眺めはじめる。


「これは何かの武器?」

「ああ、違う違う、こいつらも道具だよ。」

「どう…ぐ。」

 リサは半目開きで、あんまり信用していないようだ。

 ちょうど、お湯も沸いたようなので、後部ドアを閉め、朝食の準備をする。


「…さて、今日はこの辺りの探索をしたいと思うのですが。」

「私が来た方向には、川や水飲み場はなかった。」

「では、逆方向に進んでみましょう。」

「うん。」

 椅子を立ち歩き出そうとするリサの手を掴み

「こいつで行くんですよ。」

 ハイ○ースを親指でさすと、リサが不思議そうな顔をする。


「これ、動く?」

「た…たぶん。」

 半目になるリサを横に、荷物を天井に放り上げ、出発の準備を始める。


 リサも手伝ってくれるので、幾分早く作業も進む。

 さすがにゴミ袋を置いていくわけにも行かず、新たに増えた食べカスも放り込んだ上で、二重に袋で封入し、天井に放り上げる。


 リサを助手席に乗せ、運転席に乗り、エンジンキーに手をかける。


「さぁ~て、動くのでしょうか。」

 祈るようにキーをひねる。

 ダイナモが回りエンジンが起動する。アイドリングに入ったところで

「では、出発しましょう。」

 ライトを点けハイ○ースは動き出した。


「動くんですね、この馬車。」

 馬車という言葉には、吹き出すしかなかった。

 藪などを通る事から、車体への小傷は覚悟するとして、岩や段差に挟まって身動きが取れない…などということがないように、細心の注意をはらいながら、ゆっくりと走らせなければ。


 なにはともあれ、イヌ娘との旅は今始まったばかりなのだ。

 …とりあえず、水を確保することを優先しなければ。

 ○○の水は、もう五本程度しか残っていない。

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