第17話 光魔法というもの

 光魔法。

 それは5属性の外にある、希少な魔法である。

 その使い手は、千年に一度しか生まれない。

 古代文献と口伝で受け継がれてきたものを元に、光魔法について紐解いていこうと思う。


 ルナリアが開いた本は、そのような文章から始まっていた。


 魔法には、5つの属性がある。

 水・風・火・雷・土の5つの属性だ。

 この世界に生まれたものは力に差はあれど、5属性のいずれかを使える。

 使える属性は、1人1属性だ。

 魔法には適性というものがあり、適正のない魔法は使えない。


 それぞれの魔法は、その名の関する通りのものを操ることが出来る。

 例えばルナリアの土魔法であれば、土の塊をぶつけて攻撃することが出来る。

 あるいは、土壁を作って防御壁を形成することが出来る。

 高度なものになると、土に魔法力を注いでそこから植物を生み出すことも出来るそうだ。

 ルナリアは、そこまでの域には達していない。

 生成が容易で攻撃力の高い魔法と、頑丈で広範囲な防御魔法を中心に訓練をしてきた。


 いつか、植物を生み出せるようになりたいですけれどもね。


 そうすれば、万が一この国が飢饉に襲われたときに役に立てる。

 しかし、そういったことは当然のごとく優秀な魔法師が行っている。

 そのため、長い歴史を辿ってもこの国が飢饉に見舞われる事態になったことは限りなく少ない。


 それもこれも、優秀な魔法師とそれを管理する王族あってのことですわね。


 ルナリアは、将来管理する側の人間になる予定である。

 そのための教育をされてきた。

 管理する相手のことを理解できていないと、適切な指示が出せない。

 本来は国王やその側近たちが行うものであって、王妃や王太子妃は口を出さない。

 しかし、どのような有事があるかはわからない。

 王の代行を務められるようにと、妃は知識を身に付けさせられる。


 知識は、社交の場においても重要となる。

 ルナリアは、従来の妃教育に疑問を抱いたことはない。


 それでも、光魔法についてはあまり触れられませんでしたわね。


 本の冒頭にあるように、光魔法は希少な魔法である。

 そのため、研究が進んでいない。

 扱えるものがいないのだから、記していく必要もない。


 そのため、建国神話で少し触る程度であった。


 そのことは、本の中にも書かれていた。


 古より伝わる建国神話がある。

 千年前、『闇の帝王』が世界を征服しようと目論んだ。

 世界は、闇に覆われて光を失った。

 人間では倒せない闇の帝王に、人類は滅びの寸前であった。


 そんな時だ。

 一人の少女が立ち上がった。

 少女は、どの属性にも当てはまらない強大な魔法を使った。

 そうして『闇の帝王』を退け、世界に光を取り戻したのである。


 少女と、その少女を支えた男が子孫を残した。

 それが後の、ライズルド王家である。


 そのような伝承だ。

 この国に住むものならば誰もが知っている建国神話。

 もちろんルナリアも、幼い頃から教えられて育った。


 世界を救った聖なる血筋、それが王族である。

 その王族を支えていくことが、この国を良き方に導くのだと。

 そう教えられてきた。


 三大公爵家は、王家が分かたれた血筋。

 ですので、『光の巫女』の血を少なからず引いている故に、その地位を与えられていると習いましたわね。


 ルナリアは、己の銀色の髪に触れた。

 伝承によると、『光の巫女』は白銀の髪を持つ少女だったそうだ。

 そして、それを支えた男は黄金の髪を持つ男性だったそうだ。


 その人を表すための色というものがある。

 前世的に言えば、キャラクターのイメージカラーだ。


 リヒャルト殿下であれば、その理知的さを思わせる瞳の藍色。

 ヴィ―センであれば、繊細さを秘めた瞳の灰色。

 カイトであれば、夏の葉を思わせる髪の深緑。

 レーヘルンであれば、艶やかに華やぐ髪の橙色。


 ルナリアであれば、高貴なる心を模らせたような瞳の紫色。


 それとは別に、各家にもその家を表す色がある。

 他家が使ってはならないということはない。

 しかし、正式な場面において優先されるべき家の色というものが、この世界にはある。


 王族であれば、黄金。

 そして、代々白銀の髪を持って生まれるエスルガルテ家。

 それは『光の巫女』の素養が高いとされ、白銀を冠することを許されている。

 他の公爵2家は、赤銅と黒鉄を冠するが今は置いておこう。


 エスルガルテ家は、白銀を冠する家だ。

 そのため、王族との婚姻を結ぶことも多い。

 他の公爵家に歳の近い娘が居なかったことも幸いして、ルナリアがリヒャルト殿下の婚約者に選ばれたのだ。


 そのことは、ルナリアも歴史を習っている時に聞かされた。

 この国がどのように成り立ったのか。

 王族と公爵家、それより下の貴族たちがどのような立場にいるのか。

 そのようなことを、ずっと言われてきた。

 その名に恥じぬ振る舞いをするようにと、教えられてきた。


 建国神話と重なる部分は、私が知っているものと違わないですわね。


 ルナリアは文章の一文字一文字を拾うように、丁寧に目を通していく。

 今のところ、真新しい情報は乗っていなかった。

 光魔法という言葉に、過剰反応してしまったかもしれない。


 仕方ないですわ。

 リーリエ・ソルアが使う魔法なのですもの。


 光魔法を使えるというだけで、様々なことが優遇される。

 千年に一人の希少な人物というだけで、全てが許される。

 やはりリーリエ・ソルアは、いけ好かない。


 ルナリアは、ページをめくる。


 光魔法の使い手が初めて登場するのは、3千年前を語る伝承である。


 ここで、ルナリアも知らない情報が出て来た。

 3千年前の伝承とはなんだろうか。

 ルナリアは、歴史や民俗学などの知識を掘り起こす。


 いや、そんなことをするよりも読み進めた方が早いだろう。

 ルナリアは、再び本へ目を落とした。


 3千年前、世界には闇の眷属が支配する混沌とした場所であった。

 その闇の眷属たちを統べていたのが『闇の帝王』である。

 『闇の帝王』は、眷属たちに人間を襲うように命じた。

 それは、人間にとって過酷な世界であった。


 これを打倒さんと決起する者もいたが、ことごとく敗れていった。

 そんな中、『闇の帝王』を倒すに至った者が現れた。

 これが初代の『光の巫女』である。


 『闇の帝王』を倒したことで、眷属たちも力を失った。

 それから、眷属たちと人間とで領土争いなどが繰り返された。

 しかし、多くは人間が勝利を得ることができるようになった。

 人間は、恐怖から解放されたのである。


 『闇の帝王』が倒されてから千年は、そのような世界であった。

 しかし、『闇の帝王』は復活したのである。

 それから再び、人間にとって過酷な闇の世界が広がった。

 だが、それも長くは続かなかった。


 再び『光の巫女』が現れ、『闇の帝王』を倒したのである。

 そして世界は再び光を取り戻した。

 また千年、人間は平和な世界を手に入れた。


 次の千年の間に、闇の眷属がいなくなった。

 人間が彼らを滅ぼしたのである。

 それから平和な世が続くと思われた。

 しかし、人間はその武勇や思想から分裂を始めた。

 そして人間同士で領土を取り合うようになった。

 そのような時代が、千年続いた。


 人間が戦いに明け暮れている間に、また『闇の帝王』は復活した。

 これを倒した『光の巫女』とそれを支えた男は、『闇の帝王』を倒した後にこう言った。

 『闇の帝王』は何度でも現れる。

 太陽に照らされたときに、影が出来るように。

 『闇の帝王』は常に我々の隣にいる、と。


 人間同士で争っている場合ではない。

 お互い譲歩し合い、平和な世界を維持するために尽力するべきである、と。

 その言葉に感銘を受けた人々は、2人を頂点として国を作ることとした。

 それが、現在のライズルド王国となったのである。


 本には、そのようなことが書かれていた。


 『闇の帝王』と『光の巫女』の戦いは、3度繰り返されておりますのね。


 光魔法で倒し切れていないということだろうか。

 それは鍛錬が足りないのではないか。

 ルナリアはそのようなことを考えた。

 しかし、師事する者もいないような魔法では、鍛錬をするにも難しいのかもしれない。


 何せ、千年に一度しか生まれないような魔法なのである。


 ですが、世界に光をもたらすという役割があるなら全うするべきですわよね。


 殿下やヴィーセン様にくっついてふらふらとしている場合ではないだろう。

 もっと勉強と鍛錬を重ねるべきだと、ルナリアはリーリエ・ソルアに不満を抱く。


 私が光魔法を使えれば、更に殿下の役に立つために奮闘いたしましたのに。


 残念で仕方ない。

 しかし、土魔法は防御と豊穣に優れた魔法系統である。

 王族の血筋に入れるに当たって、好まれる魔法と言われている。

 そういう意味では、良い魔法の資質を持って生まれたと、ルナリアは溜飲を下げた。


 しかし、本を読み進めていくうちに、ルナリアの眉間に皺が寄る。

 光魔法が得意とする分野について、書かれている。


 光魔法とは、世界にある光を用いて魔法を行使する。

 あるいは、闇に覆われた時に新たに光をもたらす魔法である。

 この魔法は、聖なる力を持って外敵から守ることに長けている。

 その範囲は、国全体を覆うほどとも言われている。


 また、光魔法の特徴として癒しの力がある。

 光魔法では怪我や病気を瞬く間に治療することが可能である。


 回復という、唯一無二である魔法を扱うことも腹立たしい。

 しかしルナリアが最も腹立たしく思ったことは、それよりも前だ。


 防御に長けているって、私の存在はどうなりますのよ!


 土魔法も光魔法も防御に優れた系統であると来た。

 そして光魔法は回復の力を持っている。

 光をもたらす千年に一度の希少な存在である。


 つまり、私はリーリエ・ソルアの引き立て役ということですの!?


 ルナリアは、思わず本を破りそうになった。

 慌てて手を放したが、背表紙に少し負荷がかかったかもしれない。

 申し訳ないと思いながら、背表紙を撫でた。


 確かに私の配役は前世的に言えば「引き立て役」というやつですわよね。

 リーリエ・ソルアを際立たせるために存在し、恋の障壁となるための存在ですわよね。


 恋に限らず、魔法でも引き立て役をさせられるとは思っていなかった。


 これは、王族があの女を援助するのも当たり前かもしれませんわね。


 ルナリアは、有事のために防御魔法を特に訓練してきた。

 己の身を守れるように。

 王族に連なるものを守れるように。

 最終的には、国民を守れるように。


 ルナリアの魔法熟練度では、国全てを覆えるような防壁を作るには至っていない。

 しかし、いつかできるようになると信じて、修練を行ってきた。


 だがそれも、光魔法にとっては容易いことであるらしい。

 なんということだろうか。


 どうして、私が光魔法の使い手ではないんですの。


 悔しさと羨ましさが入り混じる。


 どうして、あの女が選ばれましたの。

 どうして、私ではダメでしたの。


 ふと窓に目を向けると、緑の髪と桃色の髪が並んでいるのが見えた。


 ルナリアは本と鞄を手に取って、教室を飛び出した。


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