第111話
その時、ぱさりと音がして何かが床に落ち、英理はしゃがんでそれを拾い上げた。
それは備忘録の後ろ側に挟まれていた、いくつかの紙片のようだった。
『二〇〇四年五月十八日』
切り取られた複数の新聞記事に、同様の大きな見出しが躍っている。
『淡路島観光バス転落事故 教師・修学旅行生ら四十一名死傷』
英理は自分の愚かさを呪った。
どうして、父の記述を初めて見たときに結びつけられなかったのか。
母の死は関係ない。
五月十八日はあのバス事故があった日、三上保たちの命日だった。
乾いた新聞記事の裏から、コピー用紙に印刷されたネットニュースが覗いている。
『転落前 疑惑の二十分』
『見通しのよい道 なぜ』
『ハンドルミスか 人為的か』
その後の集団訴訟に至る経緯や、事故が立件されず警察の手によって収束するところまで克明に記録は続いている。
次に綴ってあったのは事件から約一ヶ月後の六月四日、
『杉並区の住宅街で火災 一棟全焼 焼け跡から二名の遺体発見』
今度は小さな新聞記事だった。
死亡者は
名字から推すに、恐らく弥生の両親だ。
父は十年前の事故について、何かを調べていた。
ゆえに関連づけるものをまとめて、この備忘録に挟んでいた。
その仮説が正しいとすれば考えられるのは一つ、修学旅行のバス転落と、弥生の両親の死は関係があるということだ。
英理は固く目を閉じ、勢いよく鼻から息を吸い込んだ。
やはり、やはり全ての暗い渦の中心に江本弥生がいる。
決然と顔を上げ、次の紙片をめくると、
『日本脳科学研究所』
『東都大学付属病院』
二つのホームページの内容を印刷したものが添付され、黄色のマーカーで線が引かれてあった。
『日本脳科学研究所 所長
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