第112話

久世弁護士に連絡すると、弥生は病院を退院した後、行方をくらませているという。


「まだ体調は万全とは言えないので、しばらくは自宅で療養するとおっしゃっていたんですが、数日前から向井家のほうにもマンションのほうにもいらっしゃらないようですね」


白々しい口調に底意を感じ取り、英理は眉を寄せた。


弥生には、亡父・向井要の残した莫大な遺産がある。


金を得ることだけが目的なら、姿を消す必要はない。


英理の考えどおり彼女が何かを企んでいたのなら、金をせしめた今こそ、行動を起こすはずだ。


真の目的を果たすために。


「俺、江本さんを追うよ」


突然切り出した英理に、看護師の制服姿で餃子を食べていた凜はぎょっとした。


「何の話?」


「ごめん、今は詳しく言えない。とりあえず有給三日とったから、彼女を見つけ出して会おうと思う。聞きたいことがあるんだ」


――どうして、もっと早くこうしなかったんだろう。


自分に問いながらも、英理は半ばその答えが分かっていた。


怖かったのだ、ずっと。


彼女の正体を知るのが。真相をこの目で見るのが。


だから必死で彼女を避け続けてきた。


けれど今は違う。


会いにいくことができる、自分の意志で。


「江本さんて、あの会社の人?いなくなっちゃったの?」


英理は頷いた。


「会って何を聞くの」


「全部だよ。俺が今思ってること、全部」


凜は顔を歪めた。


「私が何も知らないと思ってるでしょう」


底冷えのするような目で、スマホの画面を突きつける。


『修学旅行の悲劇 淡路島観光バス転落 乗客乗員四十一名死亡』


海に転落したバス残骸を写した、凄惨な写真の横に細かい文字が並んでいる。

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