第109話

英理はパソコンの電源を切り、今度は机の引き出しを開けて中を漁った。


罪悪感が胸をかすめたが、今さらという気分でもあった。


江本弥生は、まだ何かを企んでいる。


その目的を突き止め、先回りし、阻止することができるのは自分しかいない。


奇妙なほどの確信が、加速度的に高まっていく。


几帳面で生真面目な父の性格上、何かしら自分の行動の痕跡を残している可能性が高い。


日記だとか、手帳だとか、そういった類のものがどこかに残されているはずだ。


それは、あまりにもあっさりと机の一番上の引き出しに仕舞われていた。


古びた紺色の表紙の、やや分厚めのノートだった。


ページをくってみると、雑記というか備忘録のような形式で日々の概況が記されている。


日付と天気だけの日もあり、何週間かに渡って記載が飛んでいる部分もあり、あるいは見たテレビや食べたものまで詳細に書いてある日もあり、まちまちだった。


ノートは一冊しかなく、一番古い日付は三年前のものになっている。


一月から始まっており、五月のある頁に、


『五月十八日 七周忌』


英理は首を捻った。


母が逝去したのは夏だったし、三年前ならまだ四周忌のはずだ。


不可解に思いつつも読み進めていくと、一年前の五月にまた同じ記載があった。


『五月十八日 九周忌』


その数行下に、


『五月二十五日 アリオン 会う』


短い文字の羅列に、英理は目をみはった。


――アリオン……。


一年前の五月なら、時期もぴたりと符合する。


それ以外に、父と弥生を結びつけるような接点は備忘録に記されていなかった。

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