第101話
不思議と第一印象も記憶が薄い。
挨拶ぐらいはしたのだろうが、それ以上何かを喋った覚えはない。
保も単に会わせただけで、特に親交を深めてほしいという望みはないようだった。
ただ、友達には隠し事をしないという、彼なりの道義と思いやりがそうさせたのだろう。
嫌いでも好きでもない、友達の彼女。
英理にとって弥生は、その程度の存在にすぎなかった。
「保さんは何で、その……江本さんと付き合ったの?」
言いにくそうに口にした凜の眉間の皺を見て、英理は苦笑した。
「さあ、何でだろ。俺もよく分かんないんだよ。だから友達失格なんじゃないかなって思うんだけど」
明るく豪胆でよく笑う保と、顔立ちは整っているが表情に乏しく、どこか影の薄い弥生。
一見、正反対の二人を結びつけたのは何だったのか。
「中学二年生の秋ごろだったかな。進路指導の先生が、親を呼んで三者面談をしてたことがあったんだよ」
今でも覚えている、鮮烈な記憶だ。
自分の進路のことや、親や教師と話したことはまるっきり忘れているのに、あのときの保の表情だけは一度たりとも忘れたことはなかった。
「廊下に出て自分と母親で順番待ってたら、渡り廊下のほうで声がした。保と江本さんと、多分、江本さんの母親だったのかな。女の人だった」
「え、でも、江本さんって人、ご両親いないんじゃ」
英理はかすかに目元をそよがせた。
「それから少し後だったんだよ。彼女の両親が亡くなったのは」
保の母親はその場にいなかった。
先に帰ったのかもしれないし、まだ来ていなかったのかもしれない。
弥生の母親は思ったより平凡な目鼻立ちで、江本親子はあまり外見において共通点がなかった。
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