第100話



「仲よかったんだね。その、保さんて人と」


凛の手が自分の頭を撫でている。


気恥ずかしいが嫌ではなかったので、英理はなすがままに任せていた。


いつものコスプレをせず、トレードマークのポニーテールも今日は結んでいない。


父の死を伝えてから、凛が自分を心配していることは分かっていた。


どこから説明すればいいか思案に暮れたあげく、結局、保の話をすることになってしまった。


「よかったのかな。今となっては、それも分からない」


正直なところを答えると、凜は腑に落ちない表情をしている。


「保は本当にいい奴だったし、俺はあいつを尊敬してた。でも時々、あいつのことが分からなかった。本当に仲いいなら、分かってやれたんじゃないかな」


「そんなことないよ」


凜はとりなすように言った。


「他人の全部を理解するなんて無理だもん」


夜の窓に映る自分を他人のように眺め、英理は呟いた。


「保は江本さんと付き合ってたんだ」


「え」


唐突に飛び出してきた名前にかれたように、凜の動きが固まった。


二人の間では、ほぼ禁句となっていた単語だった。


「江本さんは中学の頃から可愛いって、男にすごい人気があった。同じクラスになった連中は騒いでたよ。でも物静かで大人しかったから、誰かと付き合ったりとか、そういうことはなかったらしい」


英理自身、中学時代に弥生と言葉を交わしたのは数えるほどだ。


噂くらいは耳にしていたが、保が弥生と付き合うようになるまで面識はなかった。


「同じクラスになったこともなかったし、俺の中では存在感がなくて、紹介されて初めて名前と顔が一致した。ああ、これが一組の江本さんかって」

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