第86話

英理は打ちしおれた様子で、


「そんなこと言われてもな。兄貴の難敵が、俺に倒せるわけないだろ」


小さい頃から、何をやっても有理に勝てたためしがなかった。


「本気で言ってるのか」


有理は目を丸くし、唇をすぼめてこちらを見つめている。


「当たり前だろ」


英理が唇を尖らせると、有理は聞き分けのない子供を見るような目で言った。


「俺はそうは思わないけどな」


穏やかな声に、英理がどういう意味かと問いただそうとしたとき、スピーカーから搭乗手続きの案内が聞こえてきた。


有理の乗る成田発JFK空港の離陸の時間が二十分後に迫っている。


「じゃあな、英理。気をつけろよ」


ひらりと軽く片手を上げ、そのまま有理は振り返ることなくゲートの奥へと吸い込まれていった。
























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