第87話




――それは、呆れるほど綺麗な顔と長い手足を持った男だった。


四十九日の法要と納骨の後、ホテルの会議室を借りて遺産分割協議が行われることとなり、玉田恵美子と夫である玉田宗助、それに英理と、向井弥生の代理人である久世格くぜ・いたるという弁護士が参加することとなった。


久世と面と向かって相対し、英理は有理の忠告の意味を痛感していた。


まず第一に、容姿からして久世は非凡だった。


弁護士という肩書には似つかわしくない、いわゆるスキンヘッドをしているのである。


その上異様に顔の造作が整っているものだから、目力と迫力もあいまって、独特の威圧感を醸し出している。


赤ん坊など、見ただけで泣き出しそうな風体である。


だが見た目に反して、物腰は非常に礼儀正しく丁寧だった。


一人一人にきちんと挨拶をし、目を見て話をする。


決してこちらを見下したり敵視する様子がなく、尊重する態度が伝わってくる。


年齢的には恐らく兄の有理とおっつかっつだろうが、若く見ようと思えば二十そこそこぐらいにも見えるし、大人に見ようと思えば英理より十歳以上年上にも見えないことはなかった。


さすがの恵美子も、最初は弁護士と聞いて予想だにしていなかった人物像にたじろいでいたが、巻き返そうと険のある態度で対峙した。


「最初に言っておきますけどね、私は弥生さんを向井家の嫁としては認めませんからね。ええ、断固認めませんよ。認めてたまるもんですか」


机の上に置かれた財産目録を前に、恵美子は切り口上でまくしたてる。


それを尻目に、英理は心の奥で呟いた。


――こいつ、わざとこういう格好をしているんだ。


この髪型も、初対面で相手を呑むという段取りの一つに入っているに違いない。

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