第45話

「あなたたち、あの子をお義母かあさんと呼べるの?」


恵美子は先ほどまでのヒステリックな様子とは打って変わって平坦な声色で言い、二人をじっと見据えた。


「一目で分かったわ。あの女は悪魔よ。


……いいえ、悪魔よりもっとたちが悪いわ」


英理は有理を見た。


有理は黙って、興味深げに恵美子を観察している。


「いるのよね、さも繊細ぶって男をたらし込む、蜘蛛みたいな女。私の若いときにもいたのよ。どれだけ時代が変わっても、これだけは変わらないわ」


――いるよね、顔だけで世の中渡っていくタイプ。


先日の冴島慶子の言葉を思い出し、英理は恵美子の姿に慶子が重なって見えた。


「そいつの本性を見破れるのは、同じ女だけ。でも本当のことを口にすると、彼女たちはさも被害者であるかのように泣き真似をする。男はこぞってそっちの味方をし、全力でかばい立てるっていう始末。

そして気づけばこっちは、悪者に仕立て上げられているのよ。この落とし穴にはまったら、男も女もなかなか抜け出せない」


まるで中空に書かれた台詞を読み上げるように、遠くを睨みすえて恵美子は語った。


確かに――英理は半分同情、半分同感していた――弥生は意図してかせずかは知らないが、周りの人間を悪者にしてしまうところがある。


たとえ正当な憤りや反発でも、弥生にその力のベクトルを向けると、面と向かって跳ね返されるわけではないが、なぜか罪悪感に形を変え、思わぬしっぺ返しを食らいそうな予感を連れてくる。

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