第44話
ぼんやりと英理がそんなことを考えていると、
「それにしても、どこで引っかけられたのかしらね」
「え、さっきテニス教室って」
「そんなの嘘に決まってるじゃない」
英理が言いかけたのを遮り、恵美子は目を吊り上げて甲高い声で言った。
大きく身振り手振りをするたびに、二の腕のまろやかな脂肪がたぷんたぷんと波打つ。
「『出逢いは趣味のスポーツを通じて』なんて健全ぶってるけど、私の目はごまかせませんよ。兄さんは昔から大人しくて引きこもりがちで、体育の授業が大の苦手だったの。ゴルフだって付き合いで仕方なく二、三回しか行ったことないのよ。
それにあの子の腕、見てみなさいよ。あんな骨と皮しかない鶏ガラみたいな腕で、ラケットが振れると思う?日焼けするどころか、紙みたいに真っ白な顔して」
鼻息荒くまくしたてると、傲然と紅茶を飲み干す。
「絶対にスポーツなんかじゃないわ。私が断言する」
確かに恵美子の言っていることも、もっともだ。
英理はひそかに首をひねる。
江本弥生はスポーツを好んではいなかった。父も同じだ。
出会いのきっかけが作り話だとしたら、実際はどうやって知り合ったのだろう。
何か後ろめたい事情でもあるのだろうか。
「まあ、その辺はおいおい確認するとして、来月には実際入籍するということですから、こちらとしても、その心づもりをしておくべきでしょうね。彼女を家族として迎え入れる準備を」
有理が物柔らかに口を挟んだ。
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