第21話

「いただきます」


両手を合わせて唱和すると、英理はケチャップをかけずにオムライスを口に放り込んだ。


とろける卵にチキンライス、隠し味のチーズが口の中でまろやかに溶け合う。


「うまい」


「ありがと」


凛はにっこりして、


「そっか。再婚ね」


と、しみじみした様子でレタスを口に運んでいる。


「定年っていってもまだ六十だし、天下り先もいくつかあったみたいなのに、それ全部蹴ったのも、そういうことなんだよな」


「これからは第二の人生を、その人と一緒に歩みたいってことね」


言を引き継ぐと、凜は懸念を帯びた目つきで言った。


「やっぱり反対?英ちゃんは」


「いや、別にそういうわけじゃないけど……複雑ではあるな」


母が没したのは六年前、英理が大学に入学して数カ月後のことだった。


夏の暑い盛りで、アスファルトに伸びた影が異様に黒かったことをよく覚えている。


蝉の声がわんわんと耳にこだまして、何もかもが酷く遠かった。


「お見合いだったの」


と母は言った。


「この人しかいないと思って熱烈な恋愛をしたわけじゃないけれど、やっぱりお父さんと結婚してよかったと思う。おかげで有理や英理みたいに、可愛い子供も持てたもの。今、とても幸せよ」


高校一年生くらいの頃だろうか、ふとしたきっかけで馴れそめ話をした母は、英理の頭を軽く撫でて微笑んだ。


気恥ずかしくて照れくさくて、何も言えず逃げるように部屋に戻ったような気がする。

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