第22話
その時はまだ、
それとも母だけは、その
母がこの世を去った翌年、就職した兄は家を出て、英理も友達の家を泊まり歩いたり、外で夜を越すことが多くなった。
母のいない家に帰ることが怖かった。
誰も口にこそしなかったけれど、全員が同じ気持ちだったろうと英理は思う。
そして、あの家にぽつんと、たった一人きりで取り残された父は、どんどん年を取っていった。
「英ちゃん」
声をかけられ、英理は手が止まっていることに気づいてはっとした。
「ああ、ごめん。何言おうとしてたんだっけ」
「私、ついて行こうか」
麦茶を飲み干したコップをテーブルの上に置くと、凜は申し出た。
「そこまで心配しなくても大丈夫だよ」
「何なら私たちも結婚して、英ちゃんのお父さんと一緒に挙式ってどう?」
英理は飲んでいたビールを吹き出しそうになった。
むせ込んでいる様子を指さして、凜はけらけら笑う。
「動揺しすぎ」
「だって、お前、そんないきなり」
「言っとくけどね」
人さし指を突きつけて、凜は高らかに告げる。
「いつまでも、のんびり待ってもらえると思ったら大間違いだからね。花の命は短いんですから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます