第16話




帰り道、不機嫌に揺れる電車の中で、英理は物思いにふけっていた。


――江本弥生えもと・やよいと初めて会ったのは、中学校二年生の夏だった。


同じ中学に入学していたとはいえ、4クラス160名の顔と名前は一致しておらず、交友関係の狭い英理にとって、別クラスの女子は宇宙の彼方よりも遠い存在だった。


弥生は物静かで大人しく、目立つ美人ではないが、一部の男子に絶大な人気を誇っていたという。


そんな噂も、後から聞いて知ったことだった。


第一印象は英理にとってはしかし、違和感だった。


皆が綺麗だと言っているから意地を張って認めないようにしていたのではなく、ただ自然に、美しいというより何かがおかしいと感じた。


何かがずれているような、欠けているような。けれど、その何かが分からない。


同じ中学に通っていたところで、十二歳から十五歳までの子供にはそれぞれに個体差がある。


一くくりに中学生といっても、千差万別だ。


だが、そんな中でも、やはり同じ中学に通う者同士が共有できる匂いというか、空気感と言えばいいのだろうか、暗黙の了解、特有の共通点、同様に感じている時代の風や色というものがあった。


同じ場所にいて、同じものを見て、同じ授業を受けているということがもたらす、目には見えない不思議な繋がり。


弥生にはそれがなかった。


驚くほど彼女は一人だった。


多分、最初から最後までずっと。

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