第17話

誰かに話しかけられているときも、誰かと一緒にいるときも、それは働きかけてくる相手の望んだことで、彼女自身が望んでいることではないような気がした。


同じ画家が描いた膨大な絵の中に、一つだけ別の画家が描いた絵が入り込んでいる。


美しく閉じた歌の中に、一つだけ小さな不協和音が混ざっている。


一つの始まりと終わりを持つ完結した物語の中に、一人だけ全く関係のない登場人物が紛れている。


彼女を見ると、いつもそんな、間違い探しをさせられているような気分になった。


なぜ、君はここにいるの。


その問いがどれだけ残酷なことか分かっていたから、英理は決して口にしなかった。








再会は、思いがけない形でやってきた。


一年前、株式会社永和楽器に一つ下の後輩として入社してきた弥生を見て、英理は仰天ぎょうてんした。


弥生が一年留年していたことも、自分の会社を受けていることも知らなかったが、彼女であることは顔を見てすぐに分かった。


なぜなら、彼女は卒業から十年近く経っているのに、中学生のころと少しも変わっていなかったのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る