第15話
話の内容よりも、予想以上に動揺している自分に英理は戸惑った。
「……見間違いじゃないんですか?」
「そう言うと思った。でも、残念ながらそうじゃないの。ちゃんとしっかりこの目で見たから」
慶子の口調は断定的で、確信が込められていた。
昼間の部長とのやり取りを思い出し、胸底が不愉快にむかついてくる。
英理は強いて大きく息をついた。
「しらっとした顔して不倫やってんのよ。どうせうちに入社したのだって、似たようなことして入れてもらったんでしょうよ。ま、あんなのに騙される男も馬鹿なんだけどね」
乱暴に吐き捨ててから英理の青ざめた顔を見て、慶子はばつの悪い表情をした。
「ごめん、ちょっと言い過ぎたかも。ここまで言うつもりはなかったんだけど、腹立って、つい」
うなだれる様子は、昔飼っていた犬に似ていた。
叱られた後で小屋に戻ったときの、しおれた尻尾が鮮やかに蘇る。
「お願い。今言ったことは誰にも言わないで」
応える代わりに、英理は固く頷いて言った。
「冴島さん、そろそろ行ったほうがいいんじゃないですか」
慶子は明らかに安堵の色を目に浮かべる。
「そうね、もう行くわ。付き合わせて悪かったわね。ありがとう」
「いえ。お疲れ様です」
「お疲れ様」
手を振ると、慶子は逃げるように歩き去った。
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