第14話
「大体うちの会社、事務の子は基本派遣なのに、ちゃっかりコネで正社員の座についちゃってさ」
「コネなんですか」
初耳だったので、英理は目を丸くした。
「そ。誰のかは知らないけどね。そうじゃなきゃ、あんな使えない子、誰も採用しないって」
ひらひらと手を振りながら、慶子はどぎつい言葉を吐く。
彼女は昨年離婚したばかりで、働きながら女手一つで幼い子供を育てている。
そういう人から見ると、弥生のように若く気楽な身分に対して、どうしても点が辛くなってしまうのは致し方ないのかもしれなかった。
「それに、こないだ私」
言いかけてから口を滑らせたと気づいたらしく、慶子ははっと口をつぐんだ。
「こないだ何ですか?」
敢えて気づいていない風を装い、英理は問いかけた。
慶子は口ごもったが、やがて観念したように言った。
「何でもないから忘れてって言ったって、この言い方じゃ気になるよね。いいわ、分かった。ちゃんと最後まで話す。私、フェアじゃないことは嫌いだから」
やけに饒舌な語り口の裏に、後ろめたさが滲んでいる。
英理は目を細めた。
慶子は咳払いして、声を潜めると、
「先月の終わりぐらいだったかな。仕事で遅くなったときの帰り道に、見ちゃったのよ。うちの部長と江本さんがホテル入ってくの」
心臓が嫌な音を立てて、ぐにゃりと歪む。
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