第11話
弥生はちらりと英理のほうを見ると、再び慶子に視線を戻し、静かに、しかしきっぱりと言い切った。
「お断りします」
慶子は絶句した。
「お先に失礼します。お疲れ様です」
軽く会釈して踵を返し、咎める視線をすり抜けてエレベーターホール向かって歩いていく。
英理は大慌てでその後を追いかけた。
「江本さん」
エレベーターのドアが開いたところで、引き留めようと思わず肩を掴んで驚いた。
直に骨に触れているような、片手で握りつぶしてしまえそうな細さと脆さに。
無人のエレベーターは音を立てずに閉まり、ランプは下の階へと一つ一つ明滅を開始する。
物言わぬ瞳がこちらを見上げ、間近に相対して言葉に詰まった。
江本弥生は、美少女なのだ。
二十四にもなる女性に対して、こんな表現を使うことは不適切だというのは英理も分かっている。
だが、そうとしか言いようがない雰囲気を弥生はまとっていた。
あどけない少女のまま、時を止めてしまったような。
見下ろすと、黒い長い睫毛がびっしりと扇のように生えている。
血管が薄く透けて見える白い肌に、小さな唇は桜色に潤っている。
百四十センチそこそこという背丈の低さと大きな垂れ気味の瞳が、彼女を実年齢より五歳も十歳も年下に見せていた。
あの日から、何一つ変わらず。
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