第10話

「いい機会だから先輩として言わせてもらうけど、江本さん、あなた感じ悪いよ。社内でもみんなが言ってる。挨拶しても返事しないし、愛想悪いし、飲み会にも参加しないし。学生だったら好きな人とだけつるんでればいいのかもしれないけど、社会人なんだから少しは人付き合いってものを考えなさいよ。


私だって今日の合コン、乗り気じゃないんだからね。でも部長が話進めちゃって、今後も仕事で取引することのある相手だから、ここで先方の顔潰すわけにはいかないでしょう。分かる?そういうふうに社会って回ってるの。

会社に来て仕事だけして帰りたいんなら、派遣でも何でもやりなさい。正社員なら、円滑に仕事を進めていくためのコミュニケーションも仕事の一つと思って、ちゃんと社外活動にも参加しなさい。

ねえ?向井君」


唐突に話の矛先を向けられて、英理は「へ?」と素っ頓狂な声を上げた。


慶子から貫くような視線を向けられ、しどろもどろになって、


「え、いや、はあ、そ、そうっすね。そういうのも大事というか、何というか」


要領を得ない答えに見切りをつけてか、慶子は「で、どうなの?」と首を傾げる。


弥生はきょとんとした顔で、ウサギのように目を丸くして、


「何がでしょう」


「何がでしょうじゃないわよ。合コン。もう時間ないんだから、さっさとしてよ」


洒落た外国製の腕時計に目を落とし、慶子は足踏みして催促する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る