第9話

反応の薄さに苛立ってか、慶子はマニュキアでコーティングされた爪を弾き、


「あなたも話くらいは聞いてたでしょう。うちの部長が、取引先に勝手に請け合ってセッティングしたって話。本当は販売部の女の子たちだけで行くつもりだったんだけど、派遣の子が一人風邪引いて休んでるの。人数揃えないと、相手方にも失礼でしょう。だから、悪いけどお願い」


「お断りします」


弥生は蒼く透きとおった声で言った。


面と向かって反抗されることは想定していなかったらしく、慶子の頬は見る間に紅潮した。


「ちょっと。人がこれだけ頼んでるのに、その返事は何よ」


鋭い目つきで睨みつけ、一歩詰め寄る。


慶子はすらりと長身なため、自然と見下ろす格好になった。


彼女の陰に入ったところで、弥生は表情も変えずに平然としている。


一触即発の空気に割って入ることも、かといって今さら立ち去ることもできず、英理はうろたえた。

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