第8話

「ねえ、江本さん呼んできてくれない?」


販売部の先輩、冴島慶子さえじま・けいこに声をかけられたときから、嫌な予感はしていた。


賢明な英理はあえて何の用か詮索することはせず、終業後の帰り支度をしていた弥生を呼びに行った。


自販機とテーブルのある休憩室にやってきた弥生の前に立ちはだかり、慶子は高圧的な口調で切り出した。


「急な話で悪いんだけど、今晩の榊商事との合コン、江本さんも参加してほしいの」


枕詞程度まくらことば・ていどに謝ってはいるものの、悪いと思っている様子は微塵もない。


英理は苦笑した。


弥生は黙って、入念な化粧の施された華やかな顔立ちの慶子を見つめている。


服装だけとってもブランド物の派手なスーツにシルバーのネックレスといういで立ちの慶子と、量販店で安価に売られている無地のシャツに黒いスカート、薄手のカーディガンという弥生では、天と地ほどの違いがあった。

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