第6話

反射的に挨拶して頭を下げ、ばつの悪い気分をやり過ごす。


右手にバケツ、左手にモップを持った清掃員の中年女性が、仏頂面でこちらを凝視して言った。


「何しょぼくれた顔してるの」


え、と英理は言葉に詰まった。


硬くひび割れた白い唇が、真一文字に引き結ばれている。


皺の寄った化粧気のない顔に尖った鼻、鋭く射抜くような目がまじまじと返答を要求していた。


「すいません」


わけも分からず謝ると、清掃員は呆れた顔で言った。


「何を謝ってるの、あんた」


「ええっと……」


不躾な視線を避けようと目のやり場に困り、視線を落とすと胸元の名札には浅間栄あさま・さかえとあった。


そういえば社長の又従兄弟とかなんとか、とにかく遠縁に当たる人だというのを聞いたことがあった。社内の噂は矢よりも速い。


「お仕事の邪魔をしてすいませんでした」


再び頭を下げ、逃げるように非常階段から出ると、出たところで誰かと軽くぶつかった。

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