であいの言葉

「あら、お前、生きてるの?」


 深く沈んでいた意識を無理矢理引き上げたのは、場違いなほど明るい女性の声だった。

 女性というにはまだ少し幼く、あどけなさを残した高い声が、暗闇に閉ざされていた僕の耳に、届く。

 僕の周りを緩く囲んでいた温かい水を掻くように伸ばした指の腹が、硬い壁に触れる。まだ目は開かなかったが、声の主を確かめたくて、壁に爪を立てた。


カリカリ…カリカリ…パキリ。


 硬いと思っていた壁は、僕の弱い力でも簡単にひび割れた。それと同時に周りの圧が一気に失われていく。

 急激に流れ込んできた外の空気に、口の中に溜まっていた水も溢れ、驚いた僕の喉はひゅーひゅーと音を立てた。初めての外の空気。思ったよりも冷たい。

 慣れないそれを目を閉じたまま味わっていると、また声がした。


「え?うそ、ほんとに……?」


 まるでそうなるとは思っていなかったかのような、愕然とした声色。壁の隙間から顔を出してはいないので、まだ姿は見えない。

 僕は開かない目を無理矢理こじ開けて、外に顔を出した。ぼんやりと霞む視界に、明るすぎる光が眼球を刺す。


 ひゅう、と僕の喉が鳴った―――と同時に、脳に突き抜けるような高く鋭い悲鳴が辺りに響き渡った。


 それがお師匠さまと、僕との出会い。

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