第10話 なぜ、私を見てくれないの?

私は病院で知り合った方とアパートで暮らすことになりました。


最初の数か月は楽しかったです。

年齢はすごく離れていましたがぐっと年上な分、その時は何処か安心感がありました。

最初はアパートでてんやわんやしたもののとても楽しかったです。


でも、彼は早々に私に興味を無くしました。


ある時のことです。

彼と住むアパートに同じ職場の方が娘さんを連れて遊びに来ました。

その娘さんは当時まだ10代の中学生でした。


そして、私が職場の方に手洗い場を案内していた時です。


部屋に彼と娘さんが二人になって、あろうことか彼はその娘さんの体を触ったのです。

触った場所もわいせつ行為に該当する場所でした。


その事で娘さんは心をやられたようです。

そして、自分のした行動を私のせいにしてきました。


「ユウナちゃんの愛情が重かったから俺は押しつぶされそうだったんだよ!!」


彼はそう言って私に責任を押し付けました。


私は争いを避けるために「分かった」と言ってその職場を辞めて違うところに移動しました。


それに、病院では分からなかったのですが、彼は「アルコール依存症」がありました。

酒をたくさん飲むたびにいろんな人の暴言を吐いていました。

私自身にも暴言を吐いていました。


暴力はありません。

でも、言葉の暴力が私を苦しめました。


ユウヤは精神世界の中で苦しんでいました。

時々、アパートで表に出て彼と会話を交わすことがありました。

でも、ユウヤは私が暴力の被害に遭わないために、これと言って言うことができずにいたのです。


その後も、彼は何人か職場で仲良くなった女性を連れてきました。


でも、女性ばかりで男性は一人もいませんでした。


後から聞いた話ですが、彼はある子に想いがあってよく言っていたそうです。


「ユウナちゃんがいなかったら、その子と付き合えるのに・・・」


彼にとって私は何だったのでしょうか?

おさんどんをしてくれる便利な女性だったのでしょうか?


もう本当はその時にすぐにでもアパートを出たかったです。

でも、半分家を飛び出してきたような形だったので、帰ることができないと思っていたのです。


その後も、彼は他の女性に興味を向けるばかりで私には全く興味を示さなくなりました。

彼にとっても私は「都合のいい女」だったのです。


こうして、彼の行動は横暴な振る舞いになってきました。


そして、ある日のことです。


私は新しい職場で仲良くなった方と「一緒に歩こう」と言う約束をしました。


でも、ただそれだけなのに彼はそのことが気に入らなかったのでしょう。


「出ていけ!!」


彼はそう怒鳴ったのです。

自分はいろんな女性と仲良しこよししているのに、私が男性と仲良くすのはすごく嫌ったのです。


私は彼にそう言われてそこでようやっと実家に戻り、親に彼にされてきたことを話しました。

そして、親の協力で私はアパートから荷物を引き上げて実家に戻りました。


割と最近になって、私がいなくなってから、彼が新しい職場で暴言を吐いていたことを聞きました。

そして、みんなから嫌われてその職場を辞めていったそうです。


私は実家に戻り、ようやっと安定した日々を過ごすようになりました。


彼には散々な目にあわされました。


でも、時々「ちゃんとやっているかな?」と思う時があります。

あんな人だったとはいえ、一時期は一緒に暮らした人です。


風の噂で若くて可愛い彼女ができたことを聞きました。

その方と仲良くやっているみたいなので、私は彼に全くかかわる気はありません。

たとえ、その方と何かあったとしても私はもう関係のない赤の他人です。


心配になるときはありますが、関わり合いにはなりたくありません。


また、心を壊されるようなことをされるのが怖いからです。


実家に戻り、安定した日々を過ごしていましたが私は一つの過ちがありました。


それは「一緒に歩こう」としている方に誤解を与えてしまったことです。


その人のことは確かに好きでしたが、それは「恋愛として好き」ではなく「弟のような感じで好き」だったのです。


私は三姉妹のため、男兄弟がいませんでした。

だから、男兄弟がいたらこんな感じだったのかな?と思ったのです。


その人はとても手がかかる人でした。

でも、私にどんどん依存していったので私は決断しました。


「このままでは彼はダメになってしまう・・・。彼のためにも突き放そう・・・」


そう思って私はその人を突き放しました。

そうしなければ、彼はどんどん私に依存して何もできなくなってしまうと思ったのです。


今でも、元気にしているかな?と思うことはあります。

私は別にその人のことを嫌いになったわけではありません。

でも、会うこともありません。


時々、元気でやっていること願うぐらいです。


ユウヤはその人のこともあまりよく思っていませんでした。

でも、ユウヤは「付き合うな」とかは言いません。


いえ、言うことができなかったのです・・・。


ユウヤは肉体を持っていない分、現実世界で私を守れないことは十分分かっていたからです。

そして、その頃は私は寂しがり屋でもあったので誰かがそばにいないと怖くて仕方なかったのです。


そして、私はようやく本当のフリーの状態になって「独り身」を満喫していました。

ずっと、短大の頃から誰かがそばにいましたが、この時になってようやっと私は自由になれたように思います。


私はそれまでは誰かに傍にいてもらうことで、必要とされることで、自分の存在理由を見つけたかったのかもしれません。

でも、私は今の方が伸び伸びとしています。


そして、その頃からです。

ユウヤの気配があまり感じ取れなくなってきたのは・・・。


私が一人になり悠々自適に過ごしていくにつれて、ユウヤの声がどんどん聞こえなくなりました。

医者は「時期が来たんでしょう」と言いました。


そして、消えかかっているユウヤに私は問いかけました。


「いなくなっちゃうの?


 いやだよ・・・。


 行かないでよ・・・。


 ずっとそばにいてくれるんじゃなかったの・・・?


 行かないで、行かないで・・・。


 ユウヤだけは何処にもいかないで・・・」


でも、ユウヤはこう言ったのです。


「ユウナはもう一人でも歩けるよ。


 大丈夫。


 ユウナはいろんな道を通って、ここまで辿り着いた。


 やっと自分らしく生きれるようになった。


 俺がいたままでは、ユウナは更に前に進むことができなくなる。


 俺は、姿が見えなくても、声が聞こえなくても、ユウナの幸せをずっと祈ってる」


そう言ってしばらくしたら、ユウヤはいなくなりました。


何となく、心にぽっかりと穴が開いたような状態になりました。


ずっと中にいた存在がいなくなって寂しさがこみ上げてきました・・・。

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