第20話 ガンドコ行こう

 廃墟の港町の大通りを進んでいく一行。

 ラビットとイオが猪を一頭ずつ持っている。イオはずいぶんと協力的になった。とはいえユルギの命を狙ってきた刺客だ。再びラビットはイオの首に爆弾付きの首輪をつけているが恐らくもう使うことはないだろう。


「ン~~~~~~♪ ン~~~~~~~♪」


 先頭を歩くユルギが上機嫌に鼻歌を歌っているからだ。

 彼女は完全にイオのことを仲間だと思っている。


「ユルギ、うるさいにゃ」

「えぇ~……天気がいい日は元気よく歩かなきゃだよ、ニオ。ラビットさん、あとどれくらいでつくんですか?」

「……五分もかからない。歩いてすぐの場所だから」

「よ~し、ガンドコ行こう!」

「ガンドコって何にゃ?」

「ガンガンドコドコの略」

「……意味がわからんにゃ」


 楽し気に会話しているユルギとイオ。

 ラビットはその二人の光景を、眉をひそめて見ていた。

 今回ばかりは呆れた。

 猪を二頭、借り終わり帰ると頭がないイオの体を膝に乗せて泣いているユルギの姿があった。首の爆弾が作動したのだとすぐに分かった。イオの体に巻いたはずの縄が解けていたし、イオの足元にはリモコンが転がっている。

 当初の予想ではユルギが一瞬目を離した隙にイオが縄抜けし、慌てて爆弾のボタンを押したのだと思った。そして、普通の女子高生が目の前で首が吹き飛ばされる光景など見た暁にはパニックになるのは必然。パニックになってわけもわからず泣き続けているのだ———そう判断していた。


 実際は———違った。


 ユルギは、ボタンを押さなかった。

 イオが間抜けだったゆえに、首が吹き飛んだだけだった。

 ユルギは何もせずに傍観……どころか殺されかけていたというのに、イオを信じ切って無防備な姿を晒していたと言う。


 ———おかしい。


 このユルギという日本の女子高生は何者だ? いや、平和ボケした日本人というのはみなこうなのか? 

 何となく不快な思いを抱えたまま、目的の場所に辿り着く。


「ここだ。ここがヘルガ・ファフニールの拠点だ」

「え……ここが……?」


 学校だった。

 広いグラウンドに錆びた体育館。

 そして———木造の校舎。

 三階建てで、窓がところどころ割れている。屋根のついた昭和の校舎だった。

 『■■■■■■』

 学校の名前は荒々しく削り取られていた。

 校門の横のプレートは荒い刃物のような道具を使ってしまったのか、それともこの学校に恨みがある誰かがやったのか、とにかく学校の名前を消してしまおうという強い意志が感じられる削れ方をしていた。


「ここに……〝殺し屋〟の人がいるんですか?」

「ヘルガ・ファフニールは〝ファミリー〟と呼んでいつも同じ二人の参加者とつるんでいる。三人で共同生活をするから、ここがちょうどいいんだろう」

「へぇ~……」


 校舎を見上げながら、グランドを進んでいくユルギ。


「……学校に住むなんて、憧れちゃうなぁ」

「ユルギ?」

「え? 何ですか、ラビットさん?」

「いや……嫌そうな顔をしているから」


 ユルギの表情は———苦悶に歪んでいた。

 目は細まり、瞼が震えて脂汗が浮かんでいる。


「辛い思い出があるのか? 学校に」

「別に……そういうわけじゃないですけど。まぁ、ユルギ不登校だったんで」

「そうなのか? それなのに———修学旅行に?」

「あぁ……正確に言えば不登校〝だった〟でした。なんだかんだで復活して、今月は学校に行き始めた月だったんですよ」

「そう———なのか?」

「おいぃ……無駄話してないでとっととコレ、ヘルガんとこ持って行こうにゃあ! 重たいにゃ!」 


 気が付いたら足を止めていた。


「あ、ああ」


 先を行くイオに急かされ、慌てて駆けだす二人だった。

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