第16話 しりとり

 食事を終えたようでカップラーメンは空になり、容器にフォークが突き立てられている。


「ラビットさん、どこへ?」

「食後の運動ついでに、これから行く場所への手土産をな……だからしばらくここを空けることになるんだが……」


 ラビットはウエストポーチから首輪を取り出した。

 黒く、ダイヤル式のカギが付いており、自転車かぎのような首輪だった。それをフェニックスの首に巻き付ける。


「———これは爆弾だ。ボタンを押したら爆発するタイプで、こっちをユルギに渡す」


 単純なスイッチだけが付いているリモコンをラビットから投げ渡されるユルギ。


「何かあったらそのボタンを押せ。そうするとフェニックスの頭が吹き飛ぶ」

「ハッ! 私は不死身にゃ! その程度で止められると思っているのかにゃ?」

「頭をスイカのように破裂させる程度の爆薬は入れてある。頭部を丸々再生するとなると、流石のお前でも時間がかかるだろう?」

「そ、そんなことはないにゃ~~~」


 ピュ~~~~~~♪ と下手糞な口笛を吹くイオ。


「と、いうわけだから、なるべくフェニックスからは距離を取れよユルギ」

「えぇ……でも、ラビットさん手土産って何を取ってくるつもりなんです? 食べ物ならここにあるじゃないですか」

「あぁ……」


 説明し忘れていたと周囲をぐるりと見渡して、


「この廃墟は、ヘルガ・ファフニールの縄張りなんだよ」

「ヘルガ・ファフニール? ファフニールって神話のドラゴンですよね? その人のコードネームなんですか?」

「恐らくな。私と同じ〝殺し屋〟でキラーバケーションの参加者だが面倒見がよく、困った時は相談に乗ってくれるから人望が厚い。ここら辺の地域の参加者のまとめ役になっているんだ。家はその鳥頭が壊してくれたから、再建するのにしばらく時間がかかる。それまでヘルガ・ファフニールの縄張りで拠点を借りるつもりだ」

「同じ〝殺し屋〟……なんですよね? その、信用できるんですか?」


 ユルギは、現在島中から狙われる立場にある。


「ヘルガ・ファフニールだけは大丈夫だ。彼女はこの島を楽園と呼ぶ人間だからな。さっき言ったこの島に平穏を求めてやって来た〝殺し屋〟って彼女のことだからな。大丈夫さ。ヘルガ・ファフニールは信用できる人だ。ただ———一応はこの地域のリーダーに当たる人間に許しを請いに行くわけだから手ぶらではいけない。そこら辺の猪や狼だったりを狩って献上するんだ」


 そう言って、ラビットは森へ向かった。

 弓矢のみという軽い装備で向かうその姿は、まさに狩人だった。


「……あ~」


 ユルギとイオ、二人だけがその場に残される。


 —————気まずい空気。


「しりとりでも、する?」



 〇



「マップ」

「プ……プ……またプかにゃっ!」


 ユルギとイオはしりとりをしていた。


「プばっかりずるくにゃい⁉」

「これが〝しりとりのプ攻め〟ってやつです。プで終わる単語に比べてプから始まる単語は圧倒的に少ない、しりとりの上級テクです」


 自慢げに鼻を鳴らすユルギ。

 命を狙い、狙われた二人だと言うのに呑気な雰囲気が流れ、


「ん~……ん~……プクリン!」

「はい! 〝ン〟ついたぁ~~~! イオの負け~! つーか、ポケモン~~~! 何で〝殺し屋〟なのに知ってるの~~~⁉」

「だぁ~~~クソ……ッ!」


 がっくりとをイオが首を落とした瞬間だった。



 ぐ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~……。



 彼女の腹の音が鳴る。


「にゃあ……女子高生」

「ユルギですけど?」

「獅童ユルギ、飯を食わせてくれにゃい?」


 イオは、目線をユルギの全身に向ける。

 彼女の一挙手一投足見逃さないように注意深く、様子をうかがう。


「いいですよ」

「…………ぇ?」


 断られる可能性を考慮していた。そうでなくても確実に警戒されるだろうと。

 だが、ユルギは全く気にする様子もなく、ラビットの袋に入れてあるカップラーメンを取り出し、沸かしたお湯を入れ始めた。


「ラビットさんには内緒ですよ」と口に人差し指を当てて、三分間待つことにした。

「…………」


 ジッとイオに睨まれ続けているユルギだが、全く動じる様子なく、鼻歌を歌っている。

 そして、イオは気が付いた。

 ユルギの足元に————爆弾のリモコンが置かれていることに。

 少し、イオが足を伸ばせば届く範囲だ。

 このJKはどんだけ油断しているんだ。

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