第13話 キラーバケーションの開始

 鬼ヶ島の山の中腹。

 白スーツの少年は椅子とテーブルを置き、優雅にティータイムを楽しんでいた。

 東の空から日が昇りゆく。

 ピロンッ、

 管理人のガラケーにメールが受信される。


『送信者———ラビット

ビルド依頼。

 前回と同様の小屋を依頼する。場所はE七』


 必要最低限の文面だった。


「了解了解」


 少年はどこかに携帯をかける。


「あ、導火工房さん? 一軒木組みの家を建築して欲しいんですけど、なるはやでお願いしま~す!」


 依頼を出して携帯を閉じる。

 これで明日の昼にはラビット指定の地点に家が建つはずだ。

 一仕事を終え、絶景を眺めながら香りを楽しんでいると、ザッザッザと足音が聞こえ、至福の時が邪魔される。


「誰ですか?」

「オレちゃんで~す!」


 やかましいラットの声。


「あぁ~ラットさんですかぁ! これはどうもぉ! あなたのおかげでこのバケーションが更に楽しくなりそうで感謝してますよ!」


 少年はぱあっと顔を明るくさせる。


「いやいやいや……そんな褒めないでくださいよぉ管理人さん」


 白スーツの少年———管理人に向かって恭しく一礼をするラット。


「ところで、何しにここへ? わざわざ山を登るのは大変だったでしょう?」

「へい、大変でしたよ~、もうここに来るまでに狼に襲われたり、クマに襲われたり……もうちょっと気軽に声かけられる場所にいてくださいよ~」

「ハハ」

「いや、笑てますけど」


 全く聞き入れる様子のない管理人の反応にラットは肩を落とした。


「別に、あなたぐらいだと全く応えないでしょう。獣の一匹や二匹……ねぇ?」


 横目でラットを見やる。

 ラットの両手は血まみれだった。

 その血まみれの手を見られていることに気が付いたのか、ラットは両手を振った後、背後に隠し、誤魔化すような笑いを浮かべた。


「そんなことないっすよぉ~~~。オレは本当に何の能力もない一般人っすからぁ~……この島にいる化け物共とは違います。それよりも、見ました?」


 遠くの森の、ある一か所を指さす。


「見ました」


 そこにはもくもくと煙が上がっていた。


「早速、フェニックスさんがやらかしたようですね」

「でも、失敗したみたいです」


「~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!」


 管理人がガッツポーズをする。


「よし、よし、よし‼ 狙い通り! 面白くなってきたぞぉ!」


 全身で喜びを表す管理人を、にやけた表情で眺めるラット。


「ラビットさんが勝手にJKを守るのも、計画通りですか?」

「当然ですよ。もしもラビットが教えに背いて猫を守らなかったらどうしようかとはらはらしましたが……杞憂だったみたいです」

「フフ……〝殺し屋〟っていうのも色々いますからねぇ。

 人の命を何とも思わずに金のために殺す者。

 自分は世界をよくするために人を殺していると自らを正当化している者。

 ただ殺しが楽しくて、快楽のために殺す者。

 その全員がこのバケーションで一時の平穏を享受していたんです。でも、もう終わり———そういうことですね?」

「そういうことです」


 ラットと管理人は並んで元ラビット宅の上る煙を見つめていた。


「まさか、本当に〝殺し屋〟なんて生き物が平穏を享受きょうじゅできると思っていたんですかねぇ~…………」

「それオレの前で言います? オレもキラーバケーションの参加者なんですけど?」

「あなたは三番目の人でしょう?」

「三番目?」


「殺しのために自分の人生すらも投げうつことのできるシリアルキラー」


「…………」


 ラットは何も言わずに口角を釣り上げた。

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