第10話 第一の刺客ーフェニックス その2
「——————————————————————————ッ‼」
ユルギは叫ぶ。
ラビットはひたすら目をぎゅっとつむり、耳を強く抑えていた。
やがて、弾丸の嵐が止む————。
「ふぅ……快☆感……‼」
ガトリングの銃口から煙が噴きあがり、恍惚の表情を浮かべるフェニックス。
ラビットの小屋はほぼ崩壊していた。壁は一区画のみ残し、柱は折れて天井は吹き飛び、まるで爆撃にあった家のようになっていた。
二人ともひとたまりもあるまい。
そう判断し、フェニックスがガトリングガンを担ぎ上げた。そして鼻歌交じりでラビットの元家、現廃墟へ歩いていく。
シュッ—————————————‼
矢が飛んできて、フェニックスの頬をかすめていった。
「おいおい、運がいいにぇえ……!」
血が滴り落ちる。
ラビットは———健在だった。
彼女の足元には頭を抱えている獅童ユルギもいる。
ユルギすら生存していた。木くずがあたり、ももや二の腕あたりに多少の切り傷はあるが、それも転んでできたくらいだ。
「………ッ!」
そして、問答は不要とばかりに二射、三射とフェニックスに向けて矢を放ち続けるが。
ガキンッ……!
金属音と共に矢が弾かれる。
「————ッ⁉」
雲が流れ、月明かりが降り注ぐ。
闇が晴れていく。
ようやくラビットはフェニックスの姿を見止め、息を飲んだ。
フェニックスは全身に武器を装備していた。
右腕にガトリングガンを抱え、ベストにハンドガンをありったけ突っ込み、弾丸の束を胴体に括りつけている。その上背中にはアサルトライフルとスナイパーガン。ロケットランチャーを背負い、ロケット弾等が入っているケースを肩ひもで固定し、腰に添えさらに両脇にはシュツルムファウストを抱えている。
「私————遠足には何でも持って行くタイプ」
まさに———歩く弾薬庫。
ラビットの頬を一滴の汗が伝う。
こいつ———マジか……。
あんな重装備でさっきは攻撃を
化け物だ————バカだけど。
ラビットは弓に矢をつがえ、
「————おぉっと!」
ラビットが両脇のシュツルムファウストを構え、発射した。
「クッ————!」
ラビットの背後にはユルギがいる。
シュツルムファウストは強力な爆弾だ。下手に避けて床に当たり爆発などしたらユルギが危険だ。
だから———二本の矢をつがえた。
「——————ッ!」
狙う————定める————そして、
射る———!
「なっ————⁉」
同時に発射された二本の矢は、飛来する二本のシュツルムファウストの先端に当たり、空中で爆発させた。
煙で視界を塞がれるフェニックス。
「クソっ⁉ ラビットォ‼ 何やってんだぁ⁉ なんで守っている! メールは受信したんじゃないのかにぇ⁉」
揺らぐ煙、
「———————ッ!」
ラビットが飛び出す。
煙をかき分け、フェニックスへ弓を持った手で殴りかかる。
拳を受けるフェニックスは後退し、ラビットは追撃をする。
腰を据えた、アメリカ海軍式CQC。相手の攻撃を見切り、殴打技を繰り出すラビット。持っている弓もトンファーのように扱い、打撃技を繰り出していく。
「私たちは〝殺し屋〟だろう! あんな小娘守ったところで何のメリットもない! この島も治外法権で誰も罪に問われない! それどころかこの島の主———管理人から殺害したら願いを叶えるなんてメールも送られてきた!
そんなもん、いわば殺害依頼だにぇ! 〝殺し屋〟として依頼を受けて、願いを叶えると言う報酬を貰う! 全く持って普通の事! それなのにどうしてあんたが立ちふさがるんだにぇ⁉」
近接での攻防は続くが、技術はラビットが圧倒的に上回っており、フェニックスは後退一方……。
ハンドガンを取り出した————!
「—————しにぇ‼」
ラビットの一瞬の隙をついての攻撃———額狙いの超至近距離での発砲。
パァン、と音が響くがラビットは紙一重で躱したが、髪は避けるのに間に合わず何本かちぎれ跳んだ。
「ユルギに————」
「あん⁉」
「———罪はないだろう!」
ラビットの腹狙いの右ストレート。
「ぐほっっっ……⁉」
フェニックスの体が宙に浮き、後ろに吹き飛ぶ。
ラビットとフェニックスの間に距離ができた。
「罪はない⁉ 罪があるから殺す殺さないを決めてんにょか⁉ あんたは死刑執行人のつもりか!」
フェニックスは背に背負ったアサルトライフルを構え、銃口をラビットに向ける。
が————、
「私が殺せるのは、悪人だけだ!」
ラビットはすぐに距離を詰め、弓の胴でアサルトライフルを殴る。
ダダダダッ、と弾丸が天に向かって発射され、ラビットは馬乗りになりながらフェニックスを殴り続ける。
「ガッ……悪人だけを殺す⁉ 正義の味方でも気取ってるにょか⁉ グッ……! ガフッ……! なぁ、ガフ……ラビット! お前今まで何人殺した?」
「99人だ」
「私と同じだ」
「……ハァ……ハァ、そうか」
ラビットの乱打の嵐が止む。
フェニックスを殴り疲れて、全身で息をしている。
フェニックスとの戦いは距離を取ったら終わりだった。銃器をフル装備しているフェニックスに対して、ラビットの主な武器は弓一つ。
普段であれば問題はない。
殺し屋としての技術はラビットの方が圧倒的に上だ。
例え銃対弓の状況になったとしても、フェニックスの攻撃をすべて避けて矢を射る自信はある。だが、今はユルギがいる。
ユルギを殺させるわけにはいかない。対してフェニックスはラビットがユルギから注意を逸らせば容赦なくその隙をつき、ユルギの命を奪うだろう。
その隙を一切与えずに短期で決着をつけなければならなかった。
ラビットにとって幸運だったと言うかなんというか、フェニックスがバカみたいな重装備で来てくれて助かった。あれのせいでろくに身動きが取れずに格闘戦では常に後手になっていた。
「だから……どうした? 殺した数がどうしたというんだ。私はお前たちとは違う。私は弱者からの依頼で、悪だけを殺してきた。ユルギは悪ではない。管理人の意図は知らないが、彼は無駄に命を散らせようとしている。そんな行為を私は断じて許すわけにはいかない」
「グフ……ガフ……ッ! 自分は正義の殺し屋ですよとでも言いたげだなぁ……!」
「自ら名乗るつもりはないが、そう受け取ってもらっても構わない」
「ハッ……! 正義だ悪だ、そんなもん誰が決めんのかにぇ。そんなの権力者の采配ですべて決まるじゃないか?
あんたもしも、罪のない人を殺さなければ処刑って法律が作られた国で、バンバン殺し合いをしていたら、人を殺していない人間を開くって判断すんのかよ? そして、殺すんかよ?
正義だ悪だって言うのはな、結局そいつの価値観で勝手に判断する独善的なものなんだにょお!」
フェニックスがベストを脱ぎ、さらにその下のインナーまで引きちぎった。
「————ッ⁉」
フェニックスが破いたインナーの下に合ったのは地肌……だけではなかった。
「私が〝何〟か———知ってんにょかにぇ⁉」
爆弾だ。
フェニックスは大量の手りゅう弾を体に巻き付け、
「バカ—————!」
「ニッ—————!」
ピンッ……。
手りゅう弾の、ピンを抜いた。
ボボボボボッッッッ———————————————————————‼
大爆発が巻き起こる。
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