第9話 第一の刺客ーフェニックス その1
『送信者———ラット
題名———『JK狩りルール一覧』
本文
獅童ユルギ狩りの規約———
ルール1、獅童ユルギを殺す権利を得るには、一斉送信で『殺し予告メール』を出さなければいけない。
ルール2、メール送信後、24時間以内に殺害できなければ獅童ユルギを殺す権利を永久に失う。
ルール3、『殺し予告メール』を他の参加者が出し、24時間まだ経っていない場合は自分は『殺し予告メール』を出すことはできない。
ルール4、『殺し予告メール』を出さずに獅童ユルギを殺した場合、キラーバケーションの参加資格を失う。
ルール5、上記の条件を満たし、獅童ユルギ殺害を達成したものは鬼ヶ島管理人からの報酬を正当に受け取る権利を得る。
以上
みなさぁ~~~ん☆ 頑張って殺しましょうねぇ~~~~☆
皆の愛するネズミ道化より』
ラビットはガラケーが壊れんばかりの勢いで閉じた。
何だこの文面はと怒りで頭が痛くなる。
「本当にこの島何もないですね……真っ暗」
ベランダから身を乗り出し、外の風景をのんきに見つめているユルギ。
ラビットの家には電気が通っており、電球が光を灯しているが、それ以外は闇が支配している。あいにく今日は天気が悪く、月も雲に隠されている。
「ユルギ、なるべく家の奥にいろ。窓際にいると危ない」
「どうしてですか?」
「それは……」
正直に伝えるべきか迷う。下手に伝えて不安にさせたり、パニック状態に陥らせたり、そう言ったことはしたくない。
だがすでに、一人の〝殺し屋〟が動き出している。
「この島は危険なんだ。だから、早く家の中に入ってくれ」
「はぁ~い。ラビットさんって結構細かいですよね。ウチのお母さんみたい」
唇を尖らせながら、ベランダから中へと戻ろうとした、その時だった。
チュン—————ッ!
被弾の音。
「え———?」
先ほどまで、ユルギが体を預けていた。手すりに弾痕があった。その穴からは煙が噴き出しており、
「ユルギ‼ 早く中へ‼」
「———————ッ!」
ダッシュでラビットの元まで駆け寄ろうとするユルギ。
足が、一歩一歩が———遅い。
ほんの数メートルの距離なのに、何十メートルも遠く感じる。
壁を———壁を————‼
銃弾の恐怖に支配されたユルギは、弾丸から身を守ってくれる壁の元へ一刻も早く辿り着くことしか考えていなかった。それしか考えられなかった。
一方、ラビットは壁に立てかけてあるコンパウンドボウを手に取った。
矢をつがえ、外に向かって構える。
姿は———なし。
ならば、
「……………」
ラビットは目を閉じる。
反響。
ユルギの足音。虫の鳴き声。木の葉のこすれ。狼の遠吠え。
ポーン、ポーンと反響する音が、発生場所から放射状に広がり、物体にぶつかり跳ね返ってラビットの耳に入ってくる。ラビットの頭の中で音を整理し、反響から物質の形を想像、イメージで脳内に空間を創造する。
木々が生い茂り、雑草が蔓延り、海岸から延びた踏み慣らした道があり、木組みの簡単な家がある。
完璧だ。
ラビットの頭の中で、周囲の空間が完璧に構築されていた。
ユルギの息遣いが聞こえる。ラビットとの距離が一メートル……二メートルと縮まった。
「壁! 壁! 壁ェ!」
奇妙なユルギの鳴き声と共に、家の窓の下の壁に彼女が背中を付けた音が聞こえる。
ラビットが師から教え込まれた『五つの暗殺術』のうちの一つ。
例え暗闇だろうと、音の反響を聞くだけでどこになにがあり、誰がいるのかがわかる。空間完全把握能力。
深夜の視界が全くない世界でも、超聴覚を持つラビットは全てを把握していた。
足音————!
聞こえた。
南南東の方角。二十三メートル離れた場所。
そこが、襲撃者の居場所だった。
「—————ッ!」
矢を放つ。
襲撃者が体を転がらせて避ける音が聞こえる。
「流石だにぇ」
声が聞こえる。襲撃者の声だ。
「フェニックス……」
早速来たか———。
ラビットの
「前々からあんたのことは気に入らなかったんだにぇ! ラビットォ!」
ガチャンと音と、ズシっとした重さで足が地面に沈む音。そして、軽くカララ……と何かが回る音。ラビットはその音を戦場で聞いたことがあった。
ガトリング———。
「ユルギ! 体を床に這いつくばらせろ!」
ユルギが———跳んだ。
床にビタンと叩きつけられるようにうつぶせになり、ラビットも彼女の上に覆いかぶさる。
ラビットは耳を塞ぐ。
「ファイア——————————————————————————————‼」
弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾ダダダッッッッッ!
容赦のない横なぎの銃弾の雨がラビットの家に襲い掛かる。
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