第6話 普通の女子高生……獅童ユルギ、16歳・その2


 彼女は———ウサギの少女はあまりにも美しく、思わずユルギは見惚れてしまった。


「な、ラビットォ……! あんた正気? この島に部外者が紛れ込んでいるんだにぇ!

 こいつは! 明らかに! 私たちとは違う表世界の人間。だから殺しとくにかぎるでね!」


 銃を捨てて、今度は懐からライターを取り出し、フェニックスと呼ばれた女の子は口を膨らませ、



 ブッ—————————‼



 火吹きだ。

 増大されたライターの炎がユルギに向かって襲い掛かるが、


「————ッ⁉ グェ⁉」


 ドッと横から何者かにタックルされ、ユルギは吹き飛ぶ。

 ウサギの女の子だ。彼女が一気に距離を詰めて、ユルギの脇に体で当たり助けてくれたのだ。


「いい加減にしろにゃ! ラビット! あんたも所詮は同じ穴のむじなだろうが‼ いい人ぶってんじゃねぇ!

 ……くそ! もういい、この馬鹿!」


 フェニックスはどこから取り出したか、両手の指の間すべてに瓶を挟んでいた。

 口には布、その先端には炎が灯っている。


 火炎瓶だ。


 片手に四本ずつ、合計で八本もの火炎瓶を持ち———、


「あたり一面、丸焼けだぁ~にぇ‼」


 空中に投げ放った。

 無軌道に、無差別に、無造作に———。

 落下してしまったら砂浜が山火事のように火炎に包まれる結果になる。

 そんなことは瞬時にユルギは理解できたが、彼女の頭上にも火炎瓶はある。


「————うわ」


 落下してくる。

 普通の女子高生であるユルギでは、逃げきれない。間違いなく焼かれる。


 ドドドドドッ——————‼


 矢が————刺さった。


「————え」


 その刹那、は何が起きたのかわからなかった。

 空中にあったすべての火炎びんの先端に矢が直撃し、布から炎をちぎり・・・飛ばした。

 燃焼する対象がなくなった炎はすぐさま消え去り、先端の炎がなくなった火炎瓶はただの油が入った瓶と化して砂浜に落下する。


「え?」


 フェニックスも何が起きたかわからないようで、ポカンとした表情で首をかしげていた、が———。


「少し寝てろ」


 ラビットがフェニックスのあごを殴り飛ばす。

 フェニックスが白目をむいた。

 顎に強い衝撃を受けると脳が揺らされ、意識を失うと聞いたことがある。

 フェニックスは、力が抜けた様に頭をぐらぐら揺らし、ひざから崩れ落ちる。


「大丈夫か?」

「あ、はい」


 ラビットの手を取り、立ち上がる。


 小さい———。


 身長160センチあるユルギより頭一つ分ぐらい小さい。


「あの……あなたは?」


「コードネームは———『ラビット』」


「コード……? あのフェニックスって人もそうですけど、お名前はなんて?」

「言うわけにはいかない」

「どうして?」

「職業柄だ」

「……ご職業は?」



「〝殺し屋〟だ」



 殺し屋のラビットと普通の女子高生の獅童ユルギはこうして出会った。

 日本の誰も知られていない、名前すら付けられていな無人島で。

 その島は近隣の島の漁師からは絶対に近づいてはならない島として、こう呼ばれ恐れられていた。


 鬼ヶ島おにがしま————と。

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