第5話 普通の女子高生……獅童ユルギ、16歳・その1

 獅童ユルギは普通のJK。

 高校一年生だ。

 近年の疫病の大流行のご時世にもかかわらず、ユルギの高校はハワイに修学旅行に行くことになっていた。


 なって———いたのだ。


 今は———7月14日15時14分。


 ハワイ修学旅行の一日目。今はバスの中でホテルに向かっている時間のはずだ。


「ん……ん~……ここどこ?」


 決して、目の前にジャングルが広がる砂浜で一人でいる時間ではないのだ。


 周囲を見渡す。


 打ち捨てられた木材。ペットボトルのゴミ。よくわからない巨大な金属の大型ごみ。


 ユルギの格好は海水と砂で汚れてボロボロの制服。


 間違いない。そう判断するしかない。



「遭難した~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~‼」



 普通の女子高生———獅童ユルギは無人島に漂着していた。


「飛行機墜落したかぁ? え~全然覚えてない。ここどこだぁ……ユルギ、荷物すら持ってないじゃないかぁ~……」


 独り言をつぶやきながら思考を整理する。

 何か、この先生きていくために使える道具がないか、砂浜を歩き回る。


「……ゴミばっか……、一応ペットボトルはひろっておくか」


 器として使い道があるかもしれない。

 そう思って拾い上げてみるとドロッとした液体が中から零れ落ちて砂浜に落ちる。


「……やめよう」


 すぐに捨てた。


「マジですかぁ~~~~……嘘でしょ……現代日本で漂流ってそんな……、


 携帯はあった!」


 スカートのポケットを触ってみると、硬い感触があったので気が付いた。


「やったこれで緊急の……なんか……連絡して……こういう時って消防? 警察? 救急? どこに連絡すればいいの?」



「どこにも連絡しにゃいでね」



「ヒッ———————⁉」


 びっくりした。 

 誰もいないと思っていたのに、いきなり声をかけられた。

 内陸部の森林に女の子が立っていた。幼げな顔立ちでユルギよりも背が低い、へらへら笑っている女の子。

 彼女は手に黒い何かを持っていた。

 目を凝らしてよく見てみる。


「———銃⁉」


 モデルガン……! と、信じたいがこの状況、この雰囲気、とてもそんなものを人に向けて脅すとは思えない。

 彼女が持っているのは、アメリカ製のハンドガン———コルトガバメントの本物だった。


「この島が普通の人に漏れるとにぇ。困るんだよにぇ。この島はウチらにとっては楽園だからさ~」

「あの……何の話をしてるんでしょう?」

「一つ聞きたいんだけどお姉ちゃん。あんたも招待状貰ったの?」

「へ?」

「コードネームは、何?」


 コードネーム? 何の話をしてるんだろう?


「えっとぉ……一年三組出席番号十三番・獅童ユルギです。ニックネームはユーちゃんて呼ばれて……特技はポーカーで誰にも負けたことありません」


「……何をいってるのかにゃ?」


「あだ名を聞かれたので……ついでに自己紹介をば……」

「そ、大体わかったにゃ……」


 女の子は銃を持ったまま、持ってない手を打ち鳴らし、パンパンと音を出した。


「やっぱ漂流ひょうりゅうしただけの一般人みたいだにぇ」


「そうなんです! 助けがいるんです! お願いです助けてください! えっと……お名前は?」


「聞く必要はないにゃ」


 銃口をユルギに向け、引き金に欠ける指に、明らかに力がこもっていた。


「ここであんたは死ぬからにぇ」


「嘘————」


 血が飛び散る。



 ダンッ………! という銃声は————響かなかった。



「いったぁぃ……‼」


 女の子の手に、矢が刺さっていた。


「にゃー! どちらさまぁ⁉」


 痛みで引き金を引くことができないと判断し、女の子は逆の手に持ち替えて銃を構え、矢が飛んできた方に向けるが、


 シュッ—————!


 二射目が飛んできて、銃口に沿って矢が刺さる。見事に矢で塞がれてしまった。



「その子を離せ。フェニックス」



 ———ウサギがいた。


 白銀の髪に爛々と光る瞳。そして白い肌をもつ弓を引く少女———。

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