第8話 ミネルヴァ

母さんは一呼吸置くと


ジェニエーベル様、

こちらの世界に来てから、不遜だけど

本当に楽しかった。

あちらから来る時には、すごく憎しみや

悲しみの感情が私の心に

渦巻いていたけど。


ジェニエーベル様と過ごすうちに本当の、

本当の私の子供の様な気がして・・・。

本当に楽しくて。


「ジェニエーベル・・・。

 ゲームで固定だった名前じゃないか。」

そう俺は言うと微笑む母さん。


それでも話をつづける。


まずこれを渡します。

私が使っていたアイテムボックス。

もうジェニエーベル様に使い主を

変えてあります。


使い方は左手で軽く握り頭の中で、

イメージすると使えます。

とりあえず、そこの私の日記を右手で

持って中に入れることをイメージして?


俺は母さんのいう事に抵抗が出来ず

言われたままにやる。


「あれ、出来ちゃった。」

右手から日記が消え中に入った。


今度はそれをなんとなく取り出す

イメージをすると、右手に戻ってきた。

けど・・・また入れた。

3冊の日記を全部いれた。


とりあえずある程度の大きさ、そうね、

冷蔵庫くらい?ジェニエーベル様の

バイクもこの間、入れてみたら

入ったのでそれくらいです。


弓は、ほらあのスポーツショップで

アーチェリーを買って持っていきなさい。

あそこの店員話詳しいよね、異世界。

そう言うと母さんは笑う。


「母さん、アレは違う。只のヲタクだ」

と俺は言った。


刀は何年か前から

私が少しづつ鍛えております。

金槌じゃなく魔法でですよ?ふふ・・・。


この世界ではちょっといけない事をして

刀を手に入れました。現代では

結構な刀鍛冶士に作ってもらったのよ?


それからずっと今まで可能な限り

私の魔力で鍛えましたが、

思うような感じで仕上げていくことが

出来なくなったの。

そう、魔力が足らなくて・・・。


どうするべきか悩んでいた所、

加納さんから連絡があってね。

準備が整いつつあると。


「加納のおばさんか・・・。

 まさか、加納のおばさんも異世界からの

 転移者か。まぁそうだろうな、

 行動も言動も不思議系だったし。」

俺はそう思っていると


だから決めたの。

体力を魔力に変換して鍛えると。

そして今、そう、たった今出来たの。


そういうと俺に刀を渡した。


刀の名前なんてどうでもよかったし

ジェニエーベル様が決めてもよかった。


そこまで言うと母さんは急に容体が

急変した様に頭がガクンと落ちる。

それでも話を止めない。


俺は何故か聞く事しかできなかった。


けど・・私が・・・

この刀の名前を勝手に・・・

決めちゃった・・・

えっ・・へ・・へ。この刀の名前はね・・


霧島(キリシマ) ミネルヴァ打チ直シ


そうか、母さんの本当の名前は

「ミネルヴァ」だったんだね。


その刀を・・・

アイテ・・ムボック・・スに・・・


母に言われるままに俺は

刀をアイテムボックスに入れた。

母がいつも身に着けていたペンダント。

銀色に鈍く光る正方形の箱が付いている。


母さんは息も切れ切れに話をする。

母さん、もういい。少し喋るのを

止めよう。と俺が言っても。


加納さんの・・・ンションは

行った事あ・・りますよ・・ね?

すぐに準備をしてく・・・ださいませ。

可能な限りの・・・物を・・・。

その・・・ボックスに・・・。


母はもう私を見ることもなく話している。

俺は少し魔法が解けてきているのか

感情が湧いてくるのがわかる。


母さんと呼んだ。大きな声で。何回も。


母さ・・・んじゃありませ・・・んよ、

ジェ・・・ニエーベ・・・ル様。でも

とて・・・も・・・うれし・・・いです。

とても、・・・とて・・も。

一緒に帰り・・・たかったな・・・。

リーラの国・・・に。


母は微笑みながらも、

言葉も発することもなく、動くことも

無くなった。


突然の別れだった。

さっきまで病気と言っても大したことが

無い様に動き回っていた。


昨日まで一緒にご飯食べて・・・。

普通に笑って。普通に怒って。

なんで母さんは死んでいるんだ!?


俺は意味が解らなかったが、魔法が

まだ残っているのだろう。

何故か母さんの言うとおりにする。


俺は考えられる、そう異世界に持っていくと

便利だろうと言うものを

どんどんアイテムボックスに入れる。


俺は母さんを見て、やってみる。

俺は母をアイテムボックスに入れようと

したが無理だった。

帰してやりたかった・・・。くそ。


そうか・・・。

加納さんなら出来るかもしれない。いや、

必ずやってもらう。・・・絶対だ。


母は幾度となく、加納さんは

すごい人であることを教えてくれた。

あまりにも異世界系ラノベのような

話だったので、いつも

「はいはい」と聞き流していたが・・・。


俺は全ての戸締りをする。

母さんをベッドに寝かす。


俺は母さんのスマホで加納さんに

連絡を入れた。


「どうしたんだい?ミネルヴァ」

と加納さんは言ってきた。


母さんが死んだ。


俺はそう呟くと

「あんた知ってたんだろう!」と

叫んでしまった。そして、

俺は何を言っているかわからないほど

感情的に加納さんにあたってしまった。


「ミネルヴァは私がどうにかするよ」

と返事があった。


「どうにかって!なんだよそれ!」

と俺は言うと


「兎に角、私の所に来なさい。そして

 異世界、いや、エアストに帰る準備を

 してくるんだよ?」と加納さん。


そういうと通話が切れてしまった。

俺は寝ている母さんの手を握り


母さん、ちょっと加納さんの所に

行ってくるよ。そしてどうにかしてもらう。

まぁ、どうにかってよくわからないけどね。

そう言うと少し笑いながら涙を流す。


すぐに、すぐにまた会えるから。

必ず母さんを生まれ育ったところへ

連れて行ってあげるから。


そう言うと勇樹はボロボロと涙をこぼす。

一時してユウキは立ち上がり


「母さん、またな」というと

部屋を出て行った。










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