第5話 王子様

私達は休憩を挟みながら

睡眠もろくに取らず

三日三晩語り合った。


美香さんは少し寝ると言い

適当に部屋の中を見ていいよ、と

言ってくれた。


私は思った。この世界は異常だ。

人間しかいないのに争う事ばかりだ。

本当に意味が解らない。


自分たちは「人間」だというが

実は悪魔なのではないだろうか。

勿論私は悪魔を見たことが無い。


ここが悪魔の世界と言われても

私は否定しない。

それほどの悪行の数々。


しかし美香さんは人間だ。

普通に会話をして、実に優しい。


私は隣の部屋に行き、

小さな手のひらほどの書物を手に取る。

「なんなんだ!おかしいぞ!

 文字が少ない!

 余白ばっかりじゃねえか!」


しかし、読みやすいな。

なるほど美香さんが言った

「異世界研究書」なるモノ。

・・・非常に特殊なんだな・・。


私は元の部屋に戻りパソコンを

操作する。


「リーラの国」を起動させる。

私は美香さんのステータスと言う

基礎能力を見た。

ふむ。やはり武器は「12種類」だ。

その中でタクトのみ扱える。

まぁ他も装備は出来なくもないが。


まごうことなく精霊使いだ。


私は魔法の項目を見る。

そこには初級、中級は無論、

上級精霊魔法。そして極級の記載。


もしも、美香さんが私の世界に

現れたらと思うとぞっとするほどの

能力だった。


そして「ベル・ジュラック」。

私は向こうの書物で幾度となく

目にし、幾度と読み直している。


ベル・ジュラックは稀代の

精霊魔法使いだ。

約17年ほど前に魔方陣の暴走で

預かっていた曾孫と行方不明。


行方不明とは名ばかりで実際は

死んだとされている。

それほどに爆発が凄かったらしい。


しかし、一つの仮説を立てる事が

出来る。このゲームのおかげで。

ベル・ジュラックは17年前に

この世界に転移をしてきた、と。


もしもこのゲームをベル様が

作ったと言われたら信じる。

そして、ジヴァニアと言う名前。


一緒に行方不明になった曾孫の

名前と同一だ。

もしかしたらこのゲームは

ジヴァニア、いや、美香さんが

いつの日かエアストに帰る時に

役に立たせるものだろう。


しかし、疑問も残る。

ベル・ジュラックの住まいは

グリューンだ。行方不明の時には

まだ「グリューンの国」はあった。


しかし、このゲームにはない。

そしてこの「リーラの国」の

細部まで再現された完成度。


いくらベル様と言え王族の部屋までは

知らないはずだ。


そう言えば、美香さんは誰と会話を

して・・・、「おばあちゃん!」

と言ってた!


会ってみたい!是非とも会ってみたい!

私は美香に言う。

「美香さんのおばあちゃんに会わせ・・・」

そこまで言って止めた。


頼むから。そんな女子に対して

夢も希望も無くなるような格好で

寝てないでくれ・・・。


まぁ、起きるまで、いろいろと

物色させてもらおうか!


※同刻 とあるマンション※


俺は母さんを凄いと思っている。

まさに、クリエイターだ。

このゲーム「リーラの国」の

リアルさと背景。


いまはまだクエストしかないが

コレにシナリオや、母さんの言った

世界観が付けば、・・・と思っている。


母さんは時たま、ゲームの世界と

自分たちを混同させている。

実際、母さんは病気を患っている。


病名は不明だ。症状は精神疾患。

母さんは委託だが自衛官職だ。

ナニカの研究に携わっている。


俺はまた、このゲームをしている。

暇になったらついやってしまう。


アイテムボックスを整理する。

武器は「13種類」ある。

弓と刀以外も装備できなくもないが

それで魔獣と戦闘をすると

なんと!「スカる」。


そして魔法の「ま」の字もない。

いや、出ては来るのだ。

しかし俺には使えないのだ。

「なめてんのか!俺はさ!もう、

 ぶわーーーとしたいんだよ!」

といつも画面に対して怒っていた。


母さんはそれを見て笑って

「勇樹さんはそれでいいのよ」と

いつも言っていた。


そういえば前に聞いたことがある。

「俺って、いや、この主人公って

 勇者?」と。そしたら母さんは

「王子様よ」といつも笑って答えた。


因みに勇者なんていないらしい・・・。

「いや、こういうゲームの主人公って

 普通は勇者でしょう」と俺。


多分、母さんは乙女ゲーの色を

出したくて「王子様」と言うのだろう。

わけわからんが・・・。


そう言えば母さんは以前いった事がある。

「刀は勇樹さんだけの特別なモノよ。

 私が準備してあげるの」と。


「本当は12種類しかないのよ?武器は」

とも言っていた。

なるほど、だから弓に比べてスキルが

少ないと言うか皆無なのかと。


「必要な時が必ず来る」とも言っていた。

しかし、このゲームを始めて約8年。


一向にその時は来ていない・・・。


その時、ものすごい音が、

なにか爆発音に似た衝撃音が

母さんの部屋から聞こえ、部屋全体が

揺れた。


俺は慌てて母さんの部屋に入ると。

そこには刀を握り、倒れている

母さんが居た。


そして床には魔方陣のような

モノがハッキリと見えた。


「母さん!」と俺は驚き駆け寄る。

母さんを起こすと、顔が青白い。

「どうしたんだ!母さん!」と聞く。


母さんは、何か突拍子もない事を

話し始める。


何処でもいいなら何時でも

転移できるの。でもね、その場所に

行きたい場所に行くには「強い結びつき」

を持つ何かが必要なのよ。


只、親が居るとかでは駄目。

思い出があるとかでもダメ。


勿論、妖精の様な高位の、そう

エルピス様みたいな魔法使いには

ある程度の結びつきで出来るけど。


私達のような人間には

例えば、魂と肉体ほどの結びつきが

必要なの。


でも今まさにその可能性が

あるモノが現れたと唯さんが言った。


「唯さんって、美香さんの婆ちゃんか!」

と俺は言うと


「ベル・ジュラック」と母さんは言う。

彼女はエアストで屈指の精霊使い。

その彼女が出来るかもしれないと言った。

であるならば私は準備をしないといけない。


「ジェニエーベル様の為に」

この身に替えてでも。


「わかったから!少し寝てよう!?」

と俺は母さんをベッドに寝かした。


救急車!呼ばなきゃ!

俺はスマホで救急車を呼ぼうとしたが

なんで圏外!くそっ、隣に住む人に!


母の部屋から出て、

リビングのドアを開け・・・開かない!

鍵なんてついてないのに!


ガチャガチャやってると

後ろから体に何か強い衝撃が襲った。


















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