『Dさんの場合』

 

 Dさんは、お世辞にしても、必ずしも、あまり上手な歌手ではありませんでした。


 でも、レパートリーは広くて、クラシックから、民謡や、ポピュラーソングまで、なんでも歌います。


 幽霊になってからは、ラップの練習もしました。


 しかし、Dさんには、問題があって、音が高くなると、声質が痩せてしまい、きんきんになりやすく、低くなると、音程が、やや不安定になりやすかったのです。 


 もちろん、それは、本人が一番良く分かっておりました。


 それでも、好景気の時は、イベントも多く、名高い人は引っ張りだこで、費用もお高いので、予算の少ないイベントなどには、それなりに、重宝されておりました。


 しかし、戦争や疫病が続き、世相が音楽に振り向かなくなって、さっぱり声がかからなくなり、生徒さんも取れなくなり、不馴れな、コンビニのアルバイトや、食品加工場で、野菜を切ったり、単発のアルバイトなどで、ようやく糊口をしのいできました。


 しかし、Dさんには、夢がありました。


 小さな、音楽だけに集中した、ホールを作るのです。


 クラシック音楽に、特に力を入れたい。


 入場料は、極力安くし、一方、食べかねてる若い音楽家に、演奏の場を提供します。


 1公演、30分。


 入場料を払ったら、その日1日、どの公演も聞くことができます。


 また、気楽に使える、小さなレストランを併設するのです。


 練習場も、作りたい。


 入場料金をいくらにするかとかは、決めていません。

 

 だって、まだ、夢の中だから。



 しかし、Dさんは、病気になり、あっさりと、亡くなりました。


 あまりに、無念でした。


 Dさんは、幽霊派遣庁に相談しました。


 現世にさ迷う、行き場のない幽霊さんが、実のところ、かなり、いるらしい。


 どこか、空いている場所で、演奏会を開いて、ちょっとでも、慰められたらいいな。と。


 幽霊派遣庁は、この話に乗りました。


 悪くない。

 

 良い企画になります。


 最近は、天国も、地獄も、公立も私立も、定員オーバーで、なかなか、簡単には入れない。


 さらに、戦争が激しくなると、ほんとうに、手に負えなくなくなります。


 このあたりは、現世の政治家に、期待するしかないけれども、その人達が、戦争や、争いを進んでしているのだし、昔と違って、武器の威力が段違いですし。万が一、現世の人間さんが、核兵器とか使ったら、天国も、地獄も、大変なことになりかねないです。


 しかも、さ迷える幽霊さんは、増える一方で、不満が増大しております。


 あまりに、不満が膨れ上がれば、現世に、悪影響が出るかもしれない。


 最近は、特に、私立の地獄は、週休2日にしたり、食事や、福利厚生を充実させたりしています。


 天国も、地獄も、エネルギーが必要ですが、それは、主に、亡者さんたちの働きによって、作られております。


 さらに、だから、現世に置き去りの幽霊さんたちにも、なんらかの支援が必要になっておりました。


 

 そこで、幽霊派遣庁にあっては、使われていない、現世のホールを見つけて、現世駐在員に話をつけさせて、安い料金でかりあげました。


 Dさんはじめ、恵まれなかった、亡き音楽家たちは、演奏の場所を得て、また、さ迷える幽霊さんたちには、安らぎの場を提供できるのです。


 これは、第1のケースに当たります。


 ただし、上手く行ってるかというと、廃虚巡りが趣味の方が入り込んで、ひともめ、あったり、プログラムに文句がでたり、入れなかった幽霊さんが、騒いだり。なかなか、やってみると、大変でした。


 幽霊派遣庁は、後押しはするが、トラブル対応は、考えてなかったのです。


 ぼくは、キャリアではありましたが、まだ入りたてで、力がなく、先輩たちに意見しにくい環境が、ありました。


 なので、この企画は、三回ほどで、休止になっています。


 Dさんは、復活に向けて、奔走していて、ぼくは、応援しています。


 もう少し、ぼくが、昇進するまで、お待ちくださいませ。


 200年もすれば、変わると思いますから。



       🙆 👸 💂


         

 

 

  


 


 





 


 





  


 

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