『Aさんの場合』



 Aさんは、職場で、ある女性をめぐり、三角関係になり、それを苦にして、自決しました。


 ゲーテ先生も、そうした危機がありましたが、『若きウェルテルの悩み』を書いて、済ませました。


 ベルリオーズ先生も、同様に失恋でしたが、『幻想交響曲』を書いて、済ませたうえ、かなり後には、ついにその相手と結婚したのですが、うまく行かなかったようです。



 で、残りの二人は、無事に婚約したのですが、なにかの原因で、やがて破談になりました。



 この場合、Aさんは、幽霊派遣庁に派遣申込をし、怨みというか、悩みを、はらそうとしたのです。


 ただ、ふたりに、危害を加える気はありませんでした。


 自分の存在を、ひらすら、知らせ、認めさせたかったらしいです。 


 それでも、かなり、罪ですよね。


 ところが、さすがに、派遣庁に、不審に思われてしまい、手続きに手間取り、写真に写り込む等までで、危害は加えないという約束をして、現世に向かったときには、すでに、ふたりは、破談になっておりました。


 つまり、変則的ですが、これは、第2のケースに当たります。


 Aさんは、派遣された以上、なにか幽霊としての、仕事をしなければ、あの世に帰れないのです。

  

 でないと、契約違反になりますから。


 それで、両方の写真に、無理やり、写りこもうとしたのです。


 ところが、B君の写真には、ぼんやりと、頭の髪の毛しか写らずに、周囲と区別が付かなくなり、Cさんのほうでは、なぜだか、片方の、メガネのつるだけしか写りませんでしたので、だれも気が付かなかったのでした。


 一応、契約は果たされました。


 Aさんの幽霊は、しかし、悩みが無くならず、まだ、現世の隅で、ふらふらしているようですが、人に危害を加えたりはしないようなのです。まあ、かなり情けないですが、お気の毒とは思います。


 しかし、幽霊派遣庁は、そこまで、面倒はみないのです。

 


  『人を呪わば穴二つ。』

 


 


 


 

 

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