第43話 15歳
再会の喜びにひとしきり泣きながら彼の体温を堪能した私を、パーシヴァル様はまるで宝物のように優しく抱き上げて、中庭に連れていってくださった。
ずっとこうしていたい。ちなみに国王の私室に隣接するこの中庭には、限られた人しか入れない。
バラ園の光を浴びてさらさらの絹糸のような金の髪がキラキラと光る。
ラファエロブルーの瞳が柔らかに微笑んだ。
天使ですか?パーシヴァル様もしや天使なのですか?
パーシヴァル様が天使ならば、私喜んで天に召されますわ。
バラ園の中で私をそっとガーデンチェアーに座らせて下さったパーシヴァル様は、私のガーデンチェアーの肘掛けに軽く腰掛けた。緩く組まれた長い足が素敵だ。
間近にパーシヴァル様の体温を感じてときめく。
「エスメラルダ、15歳の誕生日おめでとう。」
そうなのだ。今日は私の15歳の誕生日。ランスでは社交界デビューの歳、成人と見なされる記念すべき日だ。
パーシヴァル様の凱旋こそが最大のプレゼントだわ。
パーシヴァル様は、ポケットからハガキ大の絵画を取り出した。
画面いっぱいに広がる暁の光。
パパラチアサファイアを思わせる澄みきった赤、ピンク、オレンジの入り雑じった不思議な色合いを中心としたグラデーションが美しい。朝焼けに照らされた海の絵だ。
水面がきらきらと煌めいていて朝日に照らされた白い灯台の側に寄り添うように軍艦が停泊している。
また一つ推しのコレクションが増えたわ。
「今まで頂いた絵画とストーリーのように繋がっていますのね。」
真っ暗闇だった荒れた海から、暁の穏やかな海へと変化して、かろうじて見えるくらい遠くにいた軍艦
は灯台に寄り添っている。
「この灯台がエスメラルダで、この船が私だ。
ようやく戦争が終わって未来を夢見る余裕が出来た。
いつかエスメラルダにもこの暁の海を見せてあげたい。実物は、これの数倍も綺麗だよ。」
私もパーシヴァル様と暁の海を見たいわ。
パーシヴァル様が私の髪を撫でた。
長い指先が私の栗色の髪に絡む。
愛おし気な眼差しにドキドキが止まらない。
今日は儀礼用の軍服をストイックに着こなしていらっしゃるのに、どうしてこんなに艶っぽいの?
妹キャラの毎年振られ女子をそんな目で見られるのは反則ですわ。
しかも今日は私の15歳のお誕生日なのよ。
15歳の誕生日にプロポーズして貰えた女性は幸せになれるって言い伝えを思い出して期待してしまうから、パーシヴァル様ほどほどになさって。
少々困り果てて、パーシヴァル様を見上げた。
「エスメラルダ、そんな顔をして悪い子だね。」
今日のパーシヴァル様の方がよっぽど悪い大人の顔をなさっていますが…。
そして私は悪役ではなくて、ただの当て馬なんです。
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