第40話氷壁
パーシヴァル様が集中するのがわかる。
マリー先生の指示で先程と同じ体勢のままの私は充分ご機嫌だ。
愛おしい人の体温を背中に感じて、包み込まれる暖かさに、こんなに緊張する場面だというのに、しあわせな気持ちだった。
後ろを見上げる。パーシヴァル様と目があった。
暗いのに彼の瞳に私が映っているのがわかる。
彼の瞳からふと緊張が抜けた。甘い眼差しが素敵だ。
「エスメラルダ、いい?」
あ、呼び捨て、いいわ。耳朶をくすぐる甘い声に蕩けそうだ。
「はい。」
私の返事を合図にパーシヴァル様の掌から、青い光が放たれた。敵側の港にキラキラと光る青い壁が見えた。
その美しい壁が消えないように、氷で固定する。
推しの偉業を後世に遺したい。
凍れ、ガッチガチに凍れ。
すかさずマリー先生が状態保持をかけた。
急速に睡魔が襲う。
私はパーシヴァル様に抱き抱えられたまま、眠りについたのだった。
翌朝、突如として現れた巨大な氷の壁は戦局を逆転させた。
ちょうど冬将軍が到来する季節に入ったのも、敵の戦意を削ぐのに役立った。
イスパニアは、一時撤退した。
春が来て氷が溶ければまた、攻めて来る予定だったのだろう。
しかし、夏が来てもその氷は溶けることがなかった。
ちなみにその氷は私が生きている間はずっと存在し続け、女王エスメラルダと英雄パーシヴァルの偉大さの象徴として、観光名所となるのだが、その時の私はまだ、知らない。
溶けることのない氷に全ての軍艦を凍結されて困窮したイスパニアは、国境に海を挟んだランスを遂に諦めた。
そして、同盟関係にあり密かにイスパニアの侵攻を支援していた大国ロマノフに牙を剥いた。
ここにイスパニア・ロマノフ大戦が始まることとなる。この戦いは、やがて泥沼化し二つの大国の国力を削ぎ、二国の首を締めることとなる。
ランスは漫画では終結までに10年かかった戦争をわずか一年足らずで終結させることに成功したのだった。
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