第15話【番外編】ジャン視点1
士官学校は、軍の幹部を育成する機関だ。
ここには血筋のいいお坊ちゃんが大半だが、俺みたいに魔力の多い庶民も加えられる。
現在は昔と比べ魔力を持つ人もその所有魔力量も減少した。
400年前に君臨した女王アメリアは強大な魔力を有していたとされるが、今は彼女の血をひく末裔でさえほとんど魔力を持っていない。小指の先程の微かな明かりを灯せれば魔力ありとして重用されるくらいである。
そんな中孤児だった俺は手のひら大のファイヤーボールが灯せた。当時ランス最大の魔力を誇っていた王太子を凌ぐ魔力量だったらしく、それだけで特待生となれた。おかげで生活の心配はなくなった。
士官学校では、わずかでも魔力のある貴族が幅をきかせていた。庶民出身の孤児だが豊富な魔力を持つ俺よりも、魔力を持たない亡国の王子であるパーシヴァルの方が周囲に見下されていた。
しかし、魔力がないにも関わらず座学、実技ともに秀でた彼は頭角を現し、次第に彼を馬鹿にするものはいなくなった。
感情を現さず何事にも動じない胆力があり、冴え渡る頭脳とカリスマ性をもった彼を慕うものは多い。
そんなパーシヴァルが唯一、感情をあらわしたのが、エスメラルダ嬢と出会った時だった。
テニスコートで手が触れた時二人は固まったまま、暫くじっと見つめあっていた。
あの何事にも動じない彼が固まるなんて晴天の霹靂だった。
そして、パーシヴァルは当初二時間だけと条件をつけてしぶしぶ引き受けたはずの案内役をエスメラルダ嬢が帰るまで続けた。
公爵夫妻や伯父のマッケンリー将軍がひくくらいエスメラルダ嬢につきまとったのだ。
パーシヴァル、男女問わずつきまとわれてキレてたことあったよな。そのお前が…。
エスメラルダ嬢は年齢の割には落ち着いていて、高位貴族のご令嬢だからか、あたりを払うほどの威厳があるご令嬢だ。だが、しかし。まだ、13歳の女の子だぞ。立派なロリコンだろ。そして、つきまといは犯罪だぞ。
公爵御一家を見送るパーシヴァルは、船が見えなくなるまで佇んでいた。見送りに出ていた人々が、次々に帰って行く中ただ海を見つめる彼に俺は声をかけた。
「パーシヴァル、帰るぞ」
「船が見えない。」
彼が静かに泣いているのが見えた。実の姉が亡くなった時すら冷静だった彼が…。彼の涙に気付かないふりをして明るく続けた。
「港にはまたたくさん船が来るさ。」
「あの船じゃなきゃ、エスメラルダじゃなきゃ駄目なんだ。」
悲痛な叫びは、亡国の王子という不安定な身の上をなげいているのか?
「だったら掴まえろよ、パーシヴァル。不可能を可能に変えてみせろ。」
裸一貫から成り上がれ、パーシヴァル。お前は魔力もないのに、努力だけでこの厳しい士官学校でトップに上り詰めた男だぞ。
意を決したように踵を返して歩みだしたパーシヴァルの瞳にはもう涙はなかった。
この時の彼らの出会いが俺の人生を変えることになるとは考えもしなかった。
⭐⭐⭐⭐⭐
劇に出ることになったのは、嫌がらせかと最初は思ったが、そうではないらしい。
パーシヴァルの人望と…。
俺たちって密かに人気があったんだな、全く嬉しくないけど…。盛り上がる周囲の空気が怖い。確かにパーシヴァルは美しい。美しいが、男だぞ。俺もだけど…。
目を覚ませ、野郎共。
衣装係の用意した衣装が無駄に露出している気がするのは何故だろう。
いや、気にしてはならない。
そうだ今日はたくさんの女性陣も観劇にくるはず。
母親だけではないはずだ。俺は出逢いを見つけることに希望を見いだそう。
魔力が豊富にあるおかげでたくさんの見合いが来た。しかし、お付き合いに至ったことはない。
大抵のお断りのセリフが、『自分より綺麗な人と並びたくない』なのがつらい。
せめて、出自のせいにして欲しかった。
出自には目を瞑れるのに見た目が駄目だから振られるなんて。しくしく。
綺麗なのに女性にモテモテのパーシヴァルがやって来た。綺麗すぎると振られまくる俺と同じく綺麗すぎるのに女がよってくるパーシヴァル、違いはなんだ?解せぬ。
露出多めの衣装が、美しく筋肉のついた肢体に素晴らしく映える。
しかし、えらく嬉しそうだな。どーしたよ。
「エスメラルダが来るんだ。」
パーシヴァルがはにかむように笑った。こいつのはにかみなんて初めて見たよ。
「良かったな。」
友として祝福してやるべきなのに。素直に喜んでやれなかった。
今日の俺の家族招待席には誰もいない。こいつだって似たようなものだったはずなのにな…。
何だか置いていかれたような複雑な気分だった。
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