第14話 父の苦悩

 400年前、我が祖先アメリア女王は、強大な魔力を有していたという。


 しかし現在、彼女の直系子孫である王族達でさえ、小指の先程の炎を灯せればいいくらいの僅かな魔力しか持ちあわせていなかった。


 それどころか、私や娘のエスメラルダのように全く魔力を持たない王族も産まれるくらいアメリア女王の魔力は次第に子孫に受け継がれなくなってきた。



 そして、ガリア国の元王子であるパーシヴァル・マッキンリーもそんな魔力を持たないアメリア女王の子孫の一人だった筈だ。



 知力、武勇に優れた彼が魔力を持たないのは残念だった。しかし持たないからこそ、余計な混乱をさけることができた。


 だが彼は今、魔物を霧散させる程の強大な魔力を発現させてしまった。



 このことが公になれば、パーシヴァルが我が国ランスの王位継承権を持っている以上余計な混乱を産むだろう。小さな炎を灯すくらいの僅かな魔力であれば、堂々と公表出来たが…。



 アメリア女王以来の魔力となれば、父国王に秘密裏に相談しなければなるまい。


 兄、王太子にだけは知られてはならない。


知られれば、あのプライドの高い兄王太子がなんというか…。



 一人の有能な若者の未来を案じてエスメラルダの父アルバートはため息をついた。





「まあ、パーシヴァル様火傷が。」



エスメラルダがパーシヴァルの腕に出来た火傷に触れる。魔法を使うつもりなどなかったのだろう。


 シールドが作用していない。魔力で出来た火傷は、水では冷やせない。痕が残るだろう。



 しかし、次の瞬間我が目を疑った。


自分と同じく魔力を持たず産まれてきた筈のエスメラルダの手から氷の冷気が生まれた。


 火傷を負ったパーシヴァルの腕が何事もなかったかのように元に戻る。


 幸いエスメラルダも周りも彼女が魔力を使ったことに気付いていない。



 次の瞬間、アルバートの脳裏に王家に伝わる伝承が浮かんだ。


 強大な魔力を持つアメリア女王の子孫はその魔力に潰されないようにアメリア女王の誓約によって対になる者に出逢うまで魔力を封印する。対になるものとの接触によって、次第に封印が溶けていく。



 まさか。



 しかし、娘のエスメラルダも無意識に強大な氷魔法を使っている。


 先程のパーシヴァルの炎撃に気を取られて誰も気に止めていないが、あの魔力火傷を綺麗に癒す繊細な魔力コントロールを無意識に行うとは…。



 アルバートは頭を抱えた。


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