第16話【番外編】ジャン視点2
楽屋がノックされた。
「来てくれて、ありがとう。」
パーシヴァルがにこにこと微笑みながら、ドアを開いた。こいつの作り笑顔じゃない笑顔、女性に向けるのは初めてみたよ。なんか珍しすぎて怖い。
背中から溢れる近づくなオーラも恐ろしい。
「パーシヴァル様、ご招待ありがとうございます。これ、良かったら召し上がってください。」
エスメラルダ嬢が真っ赤になりながら、大きなバスケットをパーシヴァルに差し出した。
「ありがとう!美味しそうだな。早速いただくよ。」
パーシヴァルが躊躇うことなく一つをつまんでパクっと口に入れた。
えっ?
パーシヴァルはその複雑な出自故か女性達からどれだけ差し入れをもらっても口にしない。
毒殺されかけた事があるから、差し入れは一切胃が受け付けないんだと確か以前言っていたはずだ。
そのセリフに俺のリア充パーシヴァルに対する殺意のバロメーターが爆上がりしたからよく覚えている。
旨そうな具沢山の大きなクラブサンドが二口目にはパーシヴァルの胃の中に消えていた。
彼女は特別なのか?俺が彼女に話しかけたら怒るだろうけど、リア充共め邪魔してやるならな。
「パーシヴァル、差し入れ?旨そうだな。」
パーシヴァルに殴られないように奴の肩に顎を乗せてホールドしながらバスケットを覗く。彼女の前では流石のパーシヴァルも暴力を振るわないだろう。ふふふ。
パーシヴァルの肩越しにみた彼女は、輝くように美しかった。以前見たときより数段美しさが増したように感じた。
「ジャン、目敏いな。レディ・エスメラルダ、ジャンもいいかな?」
パーシヴァルの低音の声がダイレクトに頭に響く。無駄に良い声だな。てめーわざとだろ。エスメラルダ嬢もうっとりしている。
くそー、いちゃつきやがって。
パーシヴァルが俺をエスメラルダ嬢から遮るように移動した。そのバスケットを、人身御供にするつもりだな。
その時、バスケットの後ろから妖精のように愛らしい女の子がひょっこり現れた。ちっちゃくて可愛い。真っ白な陶磁の様に透き通った肌が薔薇色に染まっている。
「私も早起きしてお手伝いしましたの。ジャン様どうぞ召し上がってくださいまし。ね、お姉様。」
こんな可愛い女の子が手伝ったサンドイッチ…。ほとんどコックが作ったに違いないだろうが、普通に旨そうなサンドイッチが急に宝物に見えてきた。
いかん、後光が差して見える。
パーシヴァルとエスメラルダ嬢はふたりでいちゃいちゃしているが、そんなのはどうでも良くなってきた。
この際リア充共は放っておこう。
俺の視線の先に恐ろしいものが映った。
あの取り巻いてる女性達に絶対零度の視線で応対するパーシヴァルが、エスメラルダ嬢にデロ甘スマイルで頭ぽんぽんだと?
いかん俺の脳が供給過多な糖分で砂糖漬けにされてしまう。エスメラルダ嬢、そいつは面がいいだけで、中身はロリコンの変態野郎だぞ、気をつけろ。
エスメラルダ嬢から送られてきたあの恐ろしい程に分厚い手紙、パーシヴァルは毎晩抱いて寝てるからな。
しかも万が一にも皺にならないようご丁寧にも枕の中に入れて。
良い夢が見れそうだなんて言ってるが、どういう神経だよ。あんな分厚い手紙、普通なら怖くて燃やすだろう。
俺は現実から目を背け、ミランダ嬢の近くに行った。跪いて視線を合わせる。近くでみるとめちゃくちゃ可愛い。
リア充共のいちゃつきを目の当たりにしたことで傷付いた俺の心がふんわりと癒されるのがわかった。
ミランダ嬢は将来、姉のエスメラルダ嬢以上に美しくなるに違いない。
ふっくらしたほっぺが可愛いすぎてにまにましてしまう。いかん、俺は不審者じゃないぞ。
「ありがとう。どのサンドイッチがオススメかな?」
小さな天使が籠の中のサンドイッチに手を伸ばした。
分厚い肉を挟んだ旨そうな逸品だ。貰おうと手を伸ばした俺の手を彼女が制した。
「あーん、なのですわ。」
親のいない俺は人生初めての『あーん』を堪能した。
生まれて初めての『あーん』がこんな美少女によるものとは。
街で見かけた親子連れのそれを羨ましく見ていた俺はミランダ嬢の天使の『あーん』で上書きされた。
もう外で『あーん』を見かけても優越感に浸れることだろう。俺の初めての『あーん』は、みたこともないくらい可愛い天使の『あーん』だったんだぞ、と。
その日のサンドイッチは俺にとって一生忘れることが出来ない大切な思い出となったのだった。
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