第2話 視察

本日も、晴天なり。


「もう、エスメラルダったら、式の途中に寝てしまうから本当に大変だったのよ。」


 お母様。私もあの時は大変だったのです。小さい時の話を蒸し返さないでください。


 私も13歳になってこの世界が『ドラゴンと呼ばれた男』によく似ている事は薄々わかってきたわ。だけど、似ているけど、少し違う。


 なぜなら、私、エスメラルダは1%も女王になる確率なんてないから!えっへん。


 お父様は王子に産まれたけど病弱で魔力がないから結婚を機に王子から公爵に臣籍降下したし。


 健康で魔力持ちの王太子殿下は別にいらっしゃるし、魔力持ちの王子は他にもお二人いらっしゃる。


 一緒なのは名前だけに違いないわ。


 だって、私には肝心の魔力が全くないもの。



 でも、パーシヴァル・マッキンリー。どんな人だったんだろう?


 お顔を見たかったわ。


まあ、でっぷりとしたおじさんだったら幻滅するから、見なくて良かったのかもしれないけど…。





 今日は、船に乗ってお父様の母校である軍の士官学校へ一泊二日の視察に来てる。視察といっても、士官学校時代の友人リチャード将軍に会いに来たんだけど。


 病弱なお父様が、ここで上手くやれてたのかな?


疑問だらけだぞ。



「こちらを案内いたします。士官学校学生のパーシヴァル・マッキンリーと申します。」



 ぼーっとしていた私は、突然出てきた推しの名前に驚いてお父様に挨拶している学生を見上げた。


 そこには士官学校の制服を着たとんでもなく麗しい青年がいた。黒い詰襟の軍服に白い帽子が眩しい。



「エスメラルダ様、はしたないですよ。」



 家庭教師のマリー先生が嗜める。


うん。はしたないのはわかってる。でもね。



 あれは、なんなんでしょうか?この国ではあまり見かけないほど鮮やかな金髪に透き通ったラファエロブルーの瞳。鍛え上げられた逆三角形のがっしりとした男らしい体格。甘いマスクのまさに王子様がそこにいた。



「なんて美しいの。」


ええ、格好いい通り越して美しいです。はい。



「エスメラルダ様、はしたないです。お声が漏れていますよ。」



 ああ、心の声が駄々漏れみたい。


でも、漫画の中をとんでもなく上回る美しい青年がいるのよ。三次元フルカラー恐るべし。


 しかも、若かりし頃なんて。


三十代のパーシヴァル様も苦み走って格好良かったよ。


 しかし10代、いや18歳なの?マリー先生、耳打ちありがとう。


 18歳のパーシヴァル様のキラキラが眩しすぎます。



 彼が推しなのかどうかなんてどちらでもいいくらい素敵。『ドラゴンと呼ばれた男』は主に二十代後半で将軍になってからのお話だったから、青年期なんて貴重すぎるし、アニメ化前だったからお声も想像するしかなかった。


 こんなにドンピシャで顔も声も好みのタイプがこの世に存在するなんて、神に感謝だわ。


 


「エスメラルダ様。前を向いてください。彼が素敵なのはよくわかります。でも、淑女たるもの見とれていてはなりません。」



 マリー先生が必死に止めるが気にしてなどおれません。


 絶対に見ます。


前回見逃した分も今回はじっくり堪能しますとも。


マリー先生、すまん。



 私は、前世全てを推しに捧げたかった。


しかし、漫画がアニメ化される前に亡くなったのだ。舞台化も決まっていたのに。この無念晴らします。晴らしてやりますとも!



 全力で推しグッズ集めてやろうじゃない?


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