当て馬氷の女王は生涯独身~全権力を行使して推しグッズを収集してみせますわ~
降魔 鬼灯
第1話 前世の記憶
エスメラルダ8歳。
雪のように白い肌に栗色の髪がくるりんとカールしていて上質なビスクドールのような端正な容姿だ。
華やかな仕立てのドレスに身を包み、両親と王宮に出向く。今日は親戚の結婚式、王族の一員として出席するのだ。
万が一でも粗相があってはいけないわ。
妹ミランダなんて我が儘でやんちゃだから連れてきて貰えなかったもの。
いつも、両親を独り占めしているミランダから離れて久々に両親を独占できるチャンスだ。
胸が高鳴る。
私は暇潰しに招待客のリストを目で追っていた。
私の名前あるかな?
そんな私の目に飛び込んできた名前はパーシヴァル・マッキンリー。頭の中でカチリとダイヤルがあった気がした。
前世しがないOLだった私が唯一嵌まった漫画『ドラゴンと呼ばれた男』の主人公、パーシヴァル・マッキンリー将軍。
ガリアの王族として生を受けた彼が生後すぐの頃、ガリアは隣国イスパニアの侵攻を受ける。
間一髪で、母の祖国ランスから救援の軍艦が駆けつけたことにより一家は亡命に成功、九死に一生を得たのだった。
成長するにつれ膨大な魔力を開花させた彼はランスで氷の女王と呼ばれるエスメラルダに仕え、宿敵イスパニアを下し大陸統一を果たす。
すべては平和な世界を実現する為に。
平和な世界が実現した後、彼は15歳の戦災孤児の少女ダリアと出逢い王宮を辞した。平和な世界に自分の居場所はない。彼女と共に残りの人生は穏やかに過ごしたいと…。
女王は、王宮に残るよう必死に懇願したが、結局パーシヴァル様は地位も名誉も全てを捨ててダリアと生きることを選ぶ。
彼が仕えた女王は、その後一生独身を貫き後世まで名君と謳われることになる。
妖艶な美貌と知性を誇る彼女もまた膨大な魔力を持っていた。得意な魔法が氷。その冷たい美貌と氷魔法から、氷の女王と呼ばれるのよね。
他国からドラゴンと恐れられる英雄パーシヴァル様が唯一頭を垂れる存在。
美しい女王にパーシヴァル様が忠誠を誓うシーンが堪らなく綺麗で好きだったわ。
女王も絶対パーシヴァル様の事が好きだったと思うのよ。だって、死の間際自分の柩にパーシヴァル様のハンカチをいれるように遺言して亡くなったんだもの。でも、自分の置かれた立場上、誰かと結婚するわけにはいかなかったのよ。
一般人として女王の葬列を見送る老パーシヴァル様の元にはダリアが…。許せんダリアより断然女王の方がパーシヴァル様にお似合いよ、って声が多かったな。
いや、待てよ。
エスメラルダって今、王族に私しかいないんだけど…。
私もしや、当て馬キャラで一生独身の女王とか?
ないよね?
急速に前世の記憶が溢れてきた。
せっかくだから、推しの小さいときの姿がみたい。
しかし、エスメラルダの幼い脳は膨大な情報量に耐えられず眠ってしまった。
生パーシヴァル様が見たいというささやかな願いは叶えられなかった。
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