異変

ウィルは、パーティー会場に居た。早朝からある、社交パーティーだけどライズは昨日から帰って居ないみたい。お仕事、忙しいのかと心配になる。


「ウィル様、ご機嫌よう。このまま行けば、ウィル様がお家を継ぐ事になりそうですね。」


子爵令嬢が、僕のご機嫌取りにやって来た。


「お父様は、ライズにするって言ってたよ。」


すると、口々にライズを非難する周囲。ウィルは、思わず不愉快になりかけて表情を隠した。


「ですが、もうそろそろ勝手に死ぬのでは?」


その言葉に、ウィルは視線を向けると説明する令息


「えっと、知らないのですか?ステータスを更新しないと、10歳まで生きられないみたいです。」


すると、喜ぶ周囲…。しかし、ウィルは初めて知ったのか青ざめる。ノートルも、焦りがある雰囲気。


「あれでしたら、殺してあげましょうか?」


令息の言葉に、ゾワゾワした何かが込み上げる。


僕の為に、僕のせいでライズの命が狙われる?殺しに、誰かが行ってしまう?しかも、プロの暗殺者。


不愉快なそれは、嘲笑う様に僕を手招きする。お父様が、何か叫んでるけど聞こえない。何も、聞きたくない!気が狂いそう、苛立ちと悲しみがグチャグチャになってどうしようもない感情に呑まれそう。


すると、後ろから誰かが優しく抱きしめる。


不愉快なそれが、怒りを向けている。僕の耳元で、真剣で優しいライズの声が聞こえたんだ。


「申し訳ないけど、連れて行かせる訳には行かないんだ。引いてくれないかな?それとも、僕を相手に対抗する?なら、僕は僕の役目を果たすだけだ。」


すると、不愉快なそいつが消えた。


「ライズ?」


不安そうに、そう呟くとライズは優しく微笑む。


「大丈夫、もう居ないよ。だから、休みなよ。」


驚いた。ライズは、崩れ落ちる僕を支えてくれた。お父様が、ライズから僕を受け取る。そこで、僕の意識は途絶えた。数人の足音だけが、聞こえた。




ライズは、仕事が終わり帰ろうとしていた。次の瞬間に、寒気がして嫌な予感に走り出す。仲間達が、驚いてからライズの表情を見て、即座に全力で走って追いかけて来る。ライズは、魔法を発動させた。


目の前には、黒い魔力を放ち堕ちかけている弟。


ライズは、法術を即座に発動させる。全員が、驚いて固まっているが。事態は、それ程には甘くない。


ライズが着地すると、床に広がる聖法術式。その、美しく繊細な術式に誰もが息を呑む。そして、床に向かって鋭い雰囲気を放つ。その声は、穏やかな木漏れ日のごとく優しいが。その視線は、真剣で落ち着いていた。床の黒い影が、呻いてる声がした。


会場は、ざわめき混乱している。


「申し訳ないけど、連れて行かせる訳には行かないんだ。引いてくれないかな?それとも、僕を相手に対抗する?なら、僕は僕の役目を果たすだけだ。」


そう言って、コートの下でロザリオを構える。勿論だけど、周りには見えてはいない。しかし、聖職者の家系にはバレているだろう。影は、消えた。


不安そうな、怖がる様な雰囲気のウィル。ライズは少し考え、無表情ではなく素顔で優しく微笑む。


そして、安心させる様に声を掛ける。


ウィルは、気絶してお父様が連れて行った。すると複数の足音が。やっと、ライズに追いついた仲間。


「おーまーえーなぁー!」


「ご、ごめんって。」


慌てて、笑いながら逃げるライズ。


「んで、何があったんだよ。」


ため息を吐いて、ライズを真剣に見る青年。


「身内が、堕天し掛けてた。」


すると、仲間の全員が驚いて納得する。


「ふーん、敵の階級は?」


すると、視線を逸らすライズ。


「おい、まさかA級とかS級じゃないよな?」


「違うよ。うん…」


すると、天を仰ぐ青年。


「無茶するなと、言ったはずだが?」


「あの子と僕では、価値が違うもの…。あ、でも簡単に死ぬつもりはないよ?それは、約束する。」


溢れた本音に、慌てて補足する様に言い訳する。


「こりゃ、反省室に連行だろうか?」


「こいつの性格上、無意味だ。」


仲間の言葉に、呆れた雰囲気で答える青年。


「あーれー?これって、少し不味い流れでは?」


ライズは、どうしようと困った雰囲気である。


「お前、この後に聖法院に連れてくからな。ただでさえ、誕生日が来てこっちは心配してるのに…。」


「えっと、すぐ?」


『すぐ!』


仲間に言われて、少し落ち込んだ様なやってしまった感の表情をするライズ。そして、深いため息を吐き出してから頷く。やってしまった事は仕方ない。


「分かった、僕が悪いから大人しくする。」


ライズは、降参とばかりの雰囲気で歩きだす。


「まったく、自覚が足りな過ぎる。」


頷きながら、青年はライズの後ろを着いて行く。他の仲間も、ゾロゾロと去って行くのであった。




そして、夜になりライズが帰る。すると、ダイナスが居て無言で驚く。そして、挨拶をして通り過ぎようとする。しかし、ダイナスは真剣な雰囲気だ。


「それで、体の方は大丈夫なのかな?」


「……。」


それだけで、充分だった。


「余り、良くないんだね。」


「長期休暇中、1週間ほど留守にします。」


すると、真剣になる。


「治療のため?」


「いいえ、ステータスを更新する為です。」


俯いた顔を上げて、明るく笑うライズ。


「待って、ライズ。言ってる意味を理解してる?」


「神様が、しろって言うんですもん。絶対に、死なせないからって。だから、死ぬ気は無いです。」


ライズは、そう言うと去ってしまった。


「そうか、君もなのか…神の声が。」


実は、ライズ達の母親にも神の言葉を聞く力があって。そのおかげで、国が繁栄していたのだった。


「これは、もう私ではどうにもならないな。分かったよ、君の望む通りに自由にしてあげる。」


ダイナスは、困った様に笑うと歩き出すのだった。




ライズは、着替えるとだらしなくベッドに倒れる。


「神様…?」


『君が望むなら、ここで人生を終わらせるのもいいと思うよ。すぐに、転生させるけどね。』


神様は、真剣な雰囲気である。


「そんな、簡単に…」


『それだけの物を、あちらの神様から貰ってる。』


「せっかくだから、抗います。」


『そう。』


神様の気配が、消えた。ライズは、ハッとしてノイズとシルバとモルを見る。3人は、知っていたのか普段通りである。ライズは、察してため息を吐く。


ベッドから降りて、勉強の資料を取ろうと本棚に向かう。すると、目がぼやけるのだ。まずいと、本棚に右手をつき左手で目を押さえる。次の瞬間、目が回るような感覚と目眩に立てなくなる。


「ライズ様!」


素早くシルバが気づき、ワンテンポ遅れてノイズが気づきライズを受け止める。動揺する2人。


シルバは、冷静にライズを見る。


そのまま、ライズは気絶してしまうのだった。次の日に、強制的に学園を休まされてしまった。


「ライズ、学園には連絡しておいたから。」


「はい。」


ベッドの上から、少しだけ戸惑いつつ言う。熱は微熱で、大丈夫だと言ったのだが問答無用だった。


「……えっと、何しよう。取り敢えず、日課のお祈りをベッドで申し訳ないけどやるかな?」


「『それより、寝てなよ!』」


神様とシルバ、2人の言葉が同時に来る。ライズは苦笑して、寝てしまうのであった。


夕方、ウィルが部屋に来る。


「……ライズ。このままだと、君は死ぬの?」


「それは、正直に言えば僕にも分からない。」


本から、視線を外して無表情に言う。ウィルは、真剣な雰囲気で言うが、嘘じゃないと察する。


「ライズ、僕は学園でも側にいるからね?」


「いやいや、もう倒れる事はないよ。だから、自分の事を優先して。ノイズ達も居るし、大丈夫。」


ライズは、そういうがウィルは悲しそうだ。


そして、学園に行く時もずっと一緒に居る。ライズは、大丈夫だと言っても離れない。そして、直感的に理由に気づく。そもそも、ウィルが堕ちかけたきっかけは…令息が、ライズを殺そうかという発言。


「ウィル、忘れてない?僕、これでもAランク冒険者だよ。その辺の令息に、負けるはずないよ。」


「でも、でも…僕のせいで…死んで欲しくない!」


泣きながら、必死に言うウィル。


「お父様は、僕の事を諦めたみたい。だから、もう彼らは僕を害する事はないよ。だから、ね?」


ライズが、そう言うと目を丸くするウィル。


「やっと、不自由な貴族社会から解放される。」


続けられた、ライズの言葉にウィルは黙り込む。


「長期休暇、ステータスを更新してくる。けど、僕がこの国を離れたらこの国の結界が壊れる。そうなれば、次々に魔物が国に襲い掛かるはず。どうか、一週間…家族全員で、ちゃんと生き延びてね?」


その言葉に、側に居たダイナスも驚いた。急いで、国王に報告する。しかし、信じていない様だ。結界は、聖教会が張っているという事になっている。


そして、維持費として国からお金を払っていた。


「まあ、でも彼が居なくなれば分かるはず。一応だけど、備えておいて無ければそれで良いのでは。」


王太子の言葉に、全員が同意して解散となる。

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